沖縄の伝統工芸の一つに焼物(沖縄の発音でヤチムン)があります。壺屋焼などが有名ですが、実は(考古学的年代の土器を除いた場合、)沖縄における焼物作りの始まりは瓦であったと言われているのです。そんな琉球・沖縄の焼物史において重要な位置を占める「瓦」を主役とした展示が那覇市立壼屋焼物博物館で行われていると知り、早速見学に行ってきました!今回はその感想を共有させて頂きます。
■瓦を知れば、沖縄の街歩きがさらに楽しくなるかも
まず、印象深かったのが一階の入口を入ってすぐ右手にある「渡地村系瓦」と呼ばれる瓦です。この瓦は渡地村という地域とその周辺でのみ、それも少量しか発掘されていない謎多き瓦となっています。獣の顔を表現した軒丸瓦がなんともユニークです。また、獣の額には沖縄のシーサーの額にも多く見られる「王」の文字が確認できます。
展示の本会場は三階になるのですが、一階の入口付近にもこのような展示がありますので、見学に行かれた際には是非お見逃しなきよう…!
三階の会場は、沖縄の瓦を知ることができるいくつものコーナーで構成されています。
会場に入ってすぐの「瓦の作り方」というコーナーでは、瓦を作る際に用いられる模骨などの道具を実際に見ることができます。
また、本展示では沖縄以外の地域の瓦も見ることができ、「沖縄の瓦成立前の東アジアの瓦」・「6つの権力 6つの瓦」というコーナーには沖縄の瓦に影響を与えた中国や朝鮮、日本の瓦が展示されています。東アジアにおける瓦の起源は紀元前・中国にあるといい、そこから各地に伝播していったそうです。
そして、海洋交易国家であった琉球にもこれらの国から瓦の技術が伝わりました。その結果、沖縄では「高麗系瓦」「大和系瓦」「明朝系瓦」の大きく分けて三種類の瓦が見られるといいます。本展示では、これら三種類の瓦それぞれの特徴が実物と共に分かりやすく紹介されています。特に軒平瓦や軒丸瓦にはその違いが大きく表れており、こういった部分に注目しながら歩くと沖縄の街をより一層楽しめるのではないかと感じました。
(また、沖縄では戦後復興の中でセメント瓦の家が多く作られ、現在も色々な場所で見ることができます。こちらもとてもかわいいのでぜひ探してみてください。)
■瓦から景観について考える
また、本展示のテーマの一つと考えられるのが景観です。
住居のつくりには地域の風土が反映され、家々がつくり出す景観からはその土地「らしさ」というイメージが形成されます。沖縄だと、「赤瓦にシーサー!」という印象を持つ方が多いのではないでしょうか。しかし、このような街並みが見られるようになったのも実は最近のことなのです。
かつての琉球王国時代において、瓦葺は宮殿や寺院、士族の邸宅といった限られた建物にのみ許されており、庶民には長い間禁じられてきました。
また、瓦の色も初期は赤ではなく灰色だったといいます。この瓦の色の違いは、焼成方法の変化によるものだそうです。本展示では、首里城の瓦の色彩について厨子(沖縄の伝統的な納骨器)の屋根表現という観点から考察したものも紹介されていて、興味深かったです。
まちの景観は地域や時代によって異なり、ひとが原風景として抱くものもそれぞれ違います。このような、人々の間にある「原風景」のギャップを象徴するものとして、会場には大嶺政寛が描いた赤瓦連なる八重山・石垣島の風景画も展示されています。
現在、景観を守るために建築物に基準を設けているという地域も多いと思います。しかし、その守ろうとしている「景観」がいつの時代のものでどのような背景があるのか、改めて考えてみたいと感じました。
■ぜひ会場へ!
壺屋焼物博物館で開催中の「うちなー赤瓦ものがたり」展は、沖縄の瓦が辿ってきた歴史を感じることができる展示となっています。ぜひ会場へ足をお運びください。
■会場・会期
那覇市壺屋焼物博物館 3階企画展示室「うちなー赤瓦ものがたり」
2021年11月2日㈫―12月26日㈰
http://www.edu.city.naha.okinawa.jp/tsuboya/2021.1102-1226.html