『バカ塗』を世界へ~津軽塗職人父娘の挑戦~ 高森美由紀『ジャパン・ディグニティ』工芸×本

COLUMN

◆「ジャパン・ディグニティ」=「漆の気高さ」

そう、漆のことを(古い)英語では、ジャパンということがあるそうです。それだけ日本の代名詞であった漆。特に津軽塗は「バカ塗」と呼ばれるそう。なぜなら、四十八もの工程があって「バカに塗ってバカに手間暇かけてバカに丈夫」という特色があるから。

この小説の主人公・美也子は小さいころから津軽塗の職人である父の工房に入り浸っていました。周りになじめず、学校も友達関係もうまくいかなかったけれども、工房の作業は自然と手伝っていたそう。

しかし、津軽塗がどんどん売れなくなり、経済的な苦境を見かねた母は父と離婚。美也子もスーパーのレジの仕事がうまくいかず、退職します。しかし、長く使われてきた漆のお椀を修理したことをきっかけに漆で食べていくことを決意。父のもとで修業に励み、最も難しい工程・上塗も任せられるように。そんなとき、弟からオランダの工芸展に出品しないかという誘いがかかります。勝負作として挑んだものは…あの楽器でした。

津軽塗の作り方から津軽弁まで、まるで青森で生活しているかのような感覚になります。一生ものは、津軽塗にしたいと思いました!

この本のすごいところは、伝統工芸ののびしろを明確に書き出していることです。美也子はある楽器に漆塗りを施し、工芸展のコンペで絶賛されたものの、「環境への強いメッセージがあった」作品に負けてしまいます。日本の伝統工芸は、こうした社会的メッセージをもっと発信していくべきなんだよ、ということをひそかに教えてくれているのかもしれません。

第一回暮らしの小説大賞受賞作。

書影は筆者撮影

伝統工芸学生アンバサダーとらくらは「伝統工芸を未来と世界に」をビジョンに活動する学生団体です!

けんた

けんた

大学では、都市をフィールドとして学んでいます。また学芸員課程を履修しており、これをきっかけに博物館や美術館に頻繁に行くようになりました。工芸にはまったきっかけは、この美術館巡りをしているときに、東京国立近代美術館工芸館(いまは金沢に移転し、国立工芸館となりました)で様々な工芸作品に出会ったことです。日用のものに込められた美に驚きました。工芸作品は、それぞれの作品が作られた「場所」やそこを取り巻く自然・人々の暮らしを包摂していて、こんなに素晴らしい作品がたくさんあったのか!と感動したのを覚えています。 とらくらでは、「地域」に根ざした伝統工芸を見ていくことで、まちと工芸の関係性・そしてその可能性を探りたいと考えています。

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