とらくら合宿2023年/ 島根・広島班/取材レポート
はじめに
みなさんは包丁に対してどんなイメージを持っていますか?最近はステンレス製のものも増え、用途や種類も多種多様化しています。包丁は日常的に使うものですが、長く使っていると切れ味が悪くなり、お手入れや買い替えなども必要になってくると思います。
そこで、かぼちゃなど硬いものからお刺身など柔らかいものまで使え、30年以上使える包丁があると聞いたらどうでしょうか。今回はそんな多岐に渉って長く愛される「高橋鍛冶屋」さんの包丁について取材させていただきました。
”包丁は使い方一つ” –高橋鍛冶屋さまの包丁の特徴とは
高橋鍛冶屋さんの包丁は鉄板を折り曲げて中に鋼を入れて作られています。鋼は焼き入れをするにも温度管理が難しく、水に入れて色を見て判断するため今では使う人が少なくなってしまいました。今は工場で先端だけに鋼を入れてプレスして大量生産がほとんどだそうです。工場生産のものは形や色まで皆おなじである一方、高橋さまの包丁は一つ一つ違います。10本作るのに約一週間で作るため、現在は2ヶ月待ち。それでも多くの方が高橋鍛冶屋さんの包丁を心待ちにしています。
また、多くの工芸品には名前が入っていることも多くありますが、高橋鍛冶屋さんの包丁には”名前を入れない”という特徴があります。「傷をつけたくない。どんなに古くなっても自分が作った包丁は分かる。」と、高橋さんはお話しされていました。
次に、包丁の扱い方についても教えていただきました。包丁は上から押すのではなく、前をすっと押し出すようにすると楽に切れるそうです。とらくら5期生みんなで実際に体験をさせていただきました。その様子を写真で紹介いたします。
とらくら5期生が体験している様子
「包丁は使い方一つ」
私はこれが今回の取材を通して、もっとも印象に残っている言葉です。高橋鍛冶屋さんの包丁は、かぼちゃからさばまで家庭料理はなんでも使え、その持ちはなんと30年以上だそうです。それに加え、研ぎと柄の交換は永年無料で行なってくださるため、生涯に渡って長く使うことができます。高橋鍛冶屋さんの包丁は一般の方向けに販売されており、その肩だけオーダーメイドも対応されています。実際に何種類もの包丁を手に取り見せていただきましたが、栗の皮抜きに特化したものやペーパーナイフなどもあり、どれもお客様の声から生まれた、使い手のニーズに寄り添ったものが多くありました。
実際の包丁を見せていただいている様子
伝統工芸の将来について
高橋さんには伝統工芸の将来についてもお伺いしました。火のそばでの作業は大変熱く過酷なため、弟子はきても持たず、長くても一年だと言います。国の補助についても農業は5年保証されているけれど、工芸は保証が2年という点にも触れられていました。2年では技術が到底身につけられないという厳しさについても考えさせられました。
また、コロナ禍の影響を受けて、鉄と鋼をつけるメーカーが廃業してしまったそうです。高橋さんはそこで砂鉄を採取するところから始め、それらを配合し現在では一から十まで全ての工程を手作りされています。武蔵野美術大学の調査で全国の鍛冶屋を調べたところ、沸かしの技が残っているのは高橋鍛冶屋さんのみだそうです。
火のそばでの作業は大変熱く過酷です
おわりに
私は高橋鍛冶屋さんの包丁について知り、一つのものを長く大切に扱うことのできる尊さを学びました。大量生産大量消費が当たり前になっている世の中ですが、一つのものを長く愛し使うことはその人の人生に寄り添い、またその家族にとっても大事な思い出になることでしょう。私は今回の取材を通して、伝統工芸との向き合い方を再認識しました。高橋鍛冶屋さん貴重な機会をいただき、あらためてありがとうございました。この記事を読んできださった方にも伝統工芸についての理解を深める一助となっていれば幸いです。
高橋鍛冶屋の皆様、大変貴重なお話をありがとうございました!
Z世代がときめく!工芸品大賞2023」トロフィー寄贈
学生団体「伝統工芸とらくら」は昨年、「Z世代がときめく!工芸品大賞2023アワード」を実施し、学生一人一人が最も魅力的だと感じた全国15ヶ所の工房に、特別セレクションとしてトロフィーを寄贈いたしました。若い世代も工芸業界を盛り上げるために何かできないかと、日々奮闘しております。
高橋鍛冶屋:http://takahashikajiya.jp
執筆者:伊藤七帆(とらくら4期生)