私たちは、2023 年 9 月に宮島の工芸店 signal の大前さんの紹介で宮島工芸製作所さんを訪れた。
その際、職人の藤井佐武郎さんに案内していただいた。
お店について
宮島桟橋から旧参道の方へ進み、住宅街を進んでいくと工場がある。工場に入ると木の暖かな香りがする。訪れた際には、何名の職人の方が作業をしており機械の音が響いていた。
祖父が木に関わるものをつくっていたことから、昭和の初めごろから杓子製作していたそうだ。型や機械などは代々引き継ぎながら使っていて、今までの職人さん方の作業の証が刻まれていた。現在卸しているものは 30,40 種類あり、大きさ・形が少しずつ異なる。さらに左利き用の杓子などもある。そのひとつひとつを手作業で作っていて、一見同じように見えるが木の個性を生かしながら一つとして同じ物のない製品をつくっている。
杓子の作り方
1,亀裂・節などをよけて大まかな形をとり、木を切断する帯鋸盤で大まかな形を切り出す
2,冶具を使い杓子の形に削り出す100 本、200 本たまったら次の工程へ
3,さらに別の冶具を使い立体的に削り出す
4,杓子をサンドペーパーで粒度の粗いものから細かいものへ番手を上げながら徐々に削っていく。形や厚みなど整えながら何度か繰り返し完成!
このすべてを何人かの職人さんで分担しながら手作業で進めていた。ものさしなどを使って厳密に削っていくのではなく、手の感覚を頼りにしながら進めていく。手触りがよく、木のけばだった感じを一切感じない。傷が少ない方が、カビが発生しにくいので長持ちするため、丁寧に仕上げをしていくそうだ。
今杓子の型は 30 種あり、古いものは直しながら使っている。厚さなどは柔軟に変えて使いやすい杓子になるよう日々アップデートしている。
杓子とは?
皆さんは杓子としゃもじの違いをご存じだろうか。
杓子→飯または汁などの食物をすくい取る道具
しゃもじ→特に飯をよそう道具
という違いがある。宮島では飯をよそうしゃもじを杓子と呼んでいる。ここで宮島杓子の由来を紹介したいと思う。
歴史は古く、寛政の頃(1800 年頃)、神泉寺の僧・誓真という人が、ある夜、弁財天の夢を見てその琵琶の形の美しい線から杓子を考察し、御山の神木を使って作ることを島の人々に教えた。この神木の杓子で御飯をいただけば、ご神徳を蒙り福運をまねくという誓真上人の高徳とともに、宮島杓子の名声は世に広く宣伝されているといわれている。なお現在では、その伝統を生かして、各種の調理杓子・お玉杓子などが考察されているようだ。
―「宮島工芸製作所 ホームページより」―
宮島の杓子事情
宮島には 2 件ほど杓子の工房があり、お土産用や飾り用を売っているお店もある。宮島工芸製作所では、道具として実用性のある杓子を取り扱っている。材料は広島県北からとれるヤマザクラなどを使い、市場に行って仕入れてきたものを指定の厚さに切断して板状にし、3,4 か月乾燥させてから加工をしていく。工場の中にたくさんの板があり、300~400 枚を二か月くらいで使い切る。年間 5 万本程度をつくるそうだ。最近は、国産の木製杓子が少なくなってきていて、国内に流通する木製杓子は外国産が多い。
コロナでの変化
杓子には、お土産物としての需要と生活製品・道具としての需要がある。お土産物として宮島の工芸店などで売るものは、観光客が来なくなりほぼ卸せなくなったそうだ。しかし道具としての需要は一定数あり、作るものは変わらないため、新たな取引先を増やすなどをして販路を広げていったそうだ。オンラインショップも開設しているが主に卸売りがメインであり、セレクトショップなどにも卸している。この工場は値段を抑えて普段使いできる杓子をつくっていて、尚且つ手入れをすれば 15 年、20 年も使用できるため「使い勝手が良い」とリピーターが増えているそうだ。
藤井さんについて
藤井さんは、美術系の大学出てその後宮島に戻ってきてこの仕事についたそうだ。今あるしゃもじの型を使い作り続けるだけでなく、改良をしていき、より良い製品を作られている。また、藤井さんは思い立ったらまな板・ヘラなど、すぐ新たな試作品をつくり、実験を繰り返しているそうだ。そのようにして試作をして、ご自宅で実際使って試しているから勘所が定まってシンプルだけど使いやすいものができるのだと感じる。
海外との関わりかた
宮島は観光客が多く、海外の方もたくさん訪れる。最近、海外では健康ブームが来ており日本人だけでなく国を超えて杓子の人気があるそうだ。しかし、日本で海外の方向けに販売することと、海外で販売することは難易度が大きく異なるとおっしゃっていた。日本であれば、日本の法律で言葉の壁もなく販売できる。一方で、輸出代行業者を通せば海外でも売ることが出来るが、何かトラブルがあった時対処しにくいのであまり海外向けには売っていないそうだ。
感想
藤井さんは、作ることの楽しさを教えてくるような存在だと感じた。何かやってみたい、改善したいものがあればすぐに手を動かして作り、試作をする。ご自身のアイデアの場合もあればお客さんからのアイデアだったりもするそうだ。どちらにせよ、ものづくりの原点である「想像したものを形にする喜び」を体現しているように思えた。
工場にはご家族が作った家具が置いてあり、オリジナルなものでとても格好よかった。しゃもじではないが、ここからものづくりのすばらしさ・現代の大量生産では表現することのできない「ぬくもり」を感じることが出来た。
今回、取材の際に自分用の杓子を購入させていただいた。まだもったいなくて使えずにいるが、そろそろ観賞用ではなく実用的な道具としての杓子として活用していきたい。この杓子でよそったご飯を食べるのが楽しみだ。
執筆:相田悠花
今回お世話になったお店
宮島工芸製作所
〒739-0588 広島県廿日市市宮島町 617
TEL:0829-44-0330
FAX:0829-44-0440
- URL: ホームページ https://miyajimakougei.com/
- オンラインショップ https://miyajimakougei.stores.jp/