京都・滋賀チーム アート・ユニ
パリコレクションにおいて高い評価を得るほどの、独自の技法と高い染色加工で世界を魅了する工房が京都市右京区にある。今回は、そんな染色工房「アート・ユニ」へ足を運び、伝統の染色技術と職人、その現場に触れた。
京都の嵐山から徒歩20分ほど、京都市右京区梅津段近くにある染織工房「アート・ユニ」。アート・ユニは広幅の反物も染めることができる国内でも数少ない染織工房である。その技術は世界的にも評価され、世界有数のブランドから生地の染色を依頼されるほどだ。今回お話を伺ったのは、アート・ユニでもっとも若い職人、越本大達さんだ。越本さんは大学卒業後この工房に飛び込んだ。職人として弟子入りをすることになったきっかけは、社長の西田清さんと出会い、職人のかっこいい姿に魅了されたからだった。彼の職人としての想いやこだわり、立ちはだかっている苦難に迫った。
アート・ユニではどのようなものをつくっているのでしょうか。
基本的には、服地を染色したり加工したりしている会社になります。京友禅という京都の伝統技法を用いながらも、新たな技法やデザインを創造しながら、和服ではなく洋服を一つひとつ手作業で染色しています。現在の日本で手で書いて染色をしているところはほとんどないかもしれません。
このものづくりの面白みはなんでしょうか。
ファッション業界の流れ的にありふれていて決まりきったデザインが多いです。しかし、手描きの場合、ブレがあったり機械には出せない味を出せるところに、面白みがあると思います。必要不可欠なものではないけれど、こういったものづくりは表現の幅を広げ、生活に彩りをもたらすと思います。
越本さんはなぜこの道に進もうと思ったのですか。
かっこいいと思える仕事がしたかったからですかね。大学在学中、進路に悩んでいるときにこの工房と出会いました。業界は沈みがちで儲からない中でも、歯を食いしばって試行錯誤を重ねて、今までにないものをつくろうとしている職人さんの生き様がかっこいいと思いました。さらに、小さな工房で職人さんが一心不乱でつくり出したものが、世界で発信されていることは大変尊いことで、すごいことだと思っています。大学では社会学を専攻していて職人とはかけ離れたところにいたので、まっさらなところからのスタートでした。現場に入って、知見が広がるにつれて職人のすごさにますます魅了されています。
なかなか厳しい世界ですよね・・・
肉体的な労働もありながら、デザインを企画したり、材料を計量してデータをとる数学的な要素もあったり、経営的な側面も考えていかなければなりません。頭も体力も使うので、求められるレベルは高く、なかなか難しい仕事ですね。さらに、手間や材料費などコストもかかるうえ、加工賃は安い状況です。なので、かなりシビアな世界だと思います。課題は山積みですが、かっこいいから今後も残ると思っています。
製品をつくるうえで工夫していることはありますか。
デザインが世の中にありふれている今日だからこそ、表現の幅を広げられるようにしています。これまでにある技法を用いることはもちろんですが、色んな道具や材料を使って、自分たちなりに試行錯誤することで、今までにない表現を生み出せるようにしています。
また、環境にも配慮するようにしています。例えば、生地に溶かした蝋を塗ることで、その部分が染まれないようにするろうけつ染めという伝統的でメジャーな技法があります。ろうけつ染めにおいても、私たち独自の表現技法をもっています。しかし、蝋を流さないといけなかったり、洗ったり染めたりするときに有害なものを出してしまうなど環境に負荷をかけてしまうので、近年では敬遠されがちです。そこで、アート・ユニでは材料会社と協力して、環境に負荷がかからない独自の蝋を使うようにしています。これまでの表現や技法は受け継ぎながらも、自分たちで味を変えてみたり材料をこだわってみたり環境に配慮したりしながら、時代の変化に合わせて様々なデザインを提案できるようにしています。
伝統産業を残していくために様々な取り組みをされていますね。どのような想いがあるのですか。
業界も小さくなって洋服の需要も少なくなると、持続可能ではなくなります。そのため、職人として仕事をする傍ら、ワークショップを開いたりデジタルアートに挑戦したりするなど、今後どのようにこういった伝統産業を残すための活動もしています。伝統産業を残していくためにも、より多くの人にポジティブでシンプルなところから興味を持ってもらえたらいいなと思っています。伝統産業というと高齢化や後継者不足など社会課題に焦点があたってしまいがちで、少し遠い存在に思われるかもれません。たしかに、このような課題はありますが、入口はかっこいい、見たことがない、なんか面白いといったシンプルなところである方が、健全であり受け入れやすいのではないでしょうか。その先で、製品に込められた想いやストーリーを伝えていけたらいいなと思います。
大学卒業と同時に職人という道を選んだ越本さん。これまでの技術を受け継ぎながらも、時代の変化に合わせて新たな取り組みやデザインを探索、探求し続ける。ポジティブでシンプルなところから伝統工芸に興味をもってほしい。そこにはものづくりに対する熱い想いがあった。
取材終わりにアート・ユニ社長の西田清さんにもお話を伺うことができた。「今の日本の伝統産業で、ご飯と食べていくのはなかなか難しいし、高齢化が進んでいて後継者がいないやんか。後を継がそうと思っても、楽してご飯食べれるわけではないし、しんどい目するわりには収入は少ないから、誰も後継がせようとせんわな。」と西田さん。伝統産業のリアルや現代社会が抱える課題をひしひしと感じた。私たちのようなZ世代から、伝統産業の厳しい現状も面白さもより多くの人に届けたい。そして、解決に向けてできることから行動を起こし続けることが大切だろう。
長い時を経て継承される伝統的な技法と、時代の変化とともに進化するアート・ユニ。これからのさらなる進化に目が離せない。
著: 米満修平
https://instagram.com/memyshu?igshid=YmMyMTA2M2Y=
アート・ユニ