とらくら記者:かっさん
大阪府立大学経済データサイエンス課程3年
祖母が丹後ちりめんの職人、父が板金会社の社長でした。伝統工芸学生アンバサダーとらくら代表、株式会社wakonartなど複数の文化系企業へ参画し、伝統工芸・伝統文化の継承に力を入れる。
今日は丹後ちりめん織元「ワタマサ」への取材でした。私の地元にある織元なのでいつも以上に気合が入りました。日本の和装白生地の半数以上のシェアを誇る丹後ちりめん。その中でも特に革新を続ける「ワタマサ」の魅力を皆さんに届けたいと思います。
丹後ちりめんとは
丹後は1300年以上前から絹織物の産地であった歴史をもちます。江戸時代に京都西陣で「お召ちりめん」が誕生した後、丹後の織物は「田舎絹」と呼ばれ、売れ行きが低迷。農業の凶作と重なり、人々の生活は極めて困窮しました。その危機を乗り越えようと京都西陣に赴き、ちりめん織りの技術を持ち帰った数名の先人たちがいました。帰郷後、 独特の「シボ(生地の凹凸)」を持ったちりめんの生産に成功し、これが丹後ちりめんの始まりとなったのです。彼らはその技術を人々に惜しみなく教え、 瞬く間に丹後一円に広まりました。丹後の職人たちは300年の間、各時代の和装シーンにいくつもの主流商品を生み出してきました。生地が透けて見える絽・紗ちりめん、色糸・金銀糸などを織り込む縫取ちりめん、上品な光沢を放つ緞子ちりめんなど、撚糸と織り技術の応用によって様々な「表情〈テクスチャー〉」の素材が誕生しました。その結果、戦前から丹後は日本一の絹織物生産地となり、今やそのシェアは全国の約70 %にも上ります。そしてその挑戦は、今もなお続いています。
https://tanko.or.jp/tangochirimen/
渡邉さん、よろしくお願いします!
よろしくお願いします。
まずはじめにワタマサはどういった織元ですか?
1918年創業で京都府指定の伝統工芸品「丹後ちりめん」の織元です。現在私で4代目です。
写真:ワタマサの工房で撮影した生糸
およそ100年、創業当初から今日まで丹後ちりめんを織ってこられたのですか?
はい、創業当初から機織りを行っています。また創業間もない時期だけ紋紙の製造も行っていました。
※紋紙= 織機で図柄を織るために用いられる型紙のこと。この型紙 (段ボールのような厚紙に穴があいたもの) が経糸と緯糸の動きを調整し、織柄を表現する。(解説 白江)
100年の間で特に大きな変化はありましたか?
直近の新型コロナも大事件ですが、ガチャマン景気の前後は業態が大きく変化するきっかけでした。
ガチャマン……
ガチャマン景気は、戦後の1950年ごろに起こった織物業界のバブルを表す言葉です。「織機をガチャンと織れば万の金が儲かる」という意味でガチャマンです。この頃は丹後も織物業が盛んで、至る所から機織りの音が聞こえていました。
面白い造語ですね。ガチャマン景気の前後でどんな変化がありましたか?
ガチャマン景気前後は、生地の下請けで儲かっていました。ただ、ガチャマン景気が終わると仕事が一気になくなり、廃業する織元が激増しました。そういった社会背景もあり、自社も白生地の下請けスタイルから徐々にオリジナル商品(白生地)を作って提案型の商売に切り替えてきました。特に、10年前から本格的な先染めの自社商品開発にも着手しました。
写真:ワタマサの工房で撮影した機織りの様子
自社ブランド!具体的にどんなブランドを仕込み始めたのですか?
丹後ちりめんは、通常はキャンパスのように使われます。染め職人や問屋が白生地を買って、後染めしてお客様へ届けます。自社ブランドとして直接お客様に届けたいので、先染めの糸で着物生地の製造を開始しました。
※先染めは先に染めたい糸を織って織物を作る、後染めは織った織物を染める、という意味です。(解説:白江)
先染め。織柄を自社で自由自在に作れると思うので面白そうです。どんな織物がありますか?実際に見てみたいです。
はい、少し待ってくださいね。
渡邉さんが織物を持ってきてくださいました!
江戸小紋には有名な3つの柄があり、それが「鮫」「角通し」「行儀」です。その中の鮫小紋という名前から着想を得て、自社の技術で「そのまんま鮫小紋」の織物を作ってみました。
次に紹介するのが「牡丹尽し」。濃淡を染めではなく、織りの技術で表現しています。
独特ですね。そのまんま鮫小紋、特に面白いです。こういった織物をデザインするときどんなことを考えておられますか?
論理的にお客さんが求めるものを作るのではなく、「感覚や感性で作る」ことを大事にしています。
だいたいの商売は理屈だけど、モノづくりの会社としてお客さんをワクワクさせて、「欲しい」と思わせるものを作りたいです。我々は着物づくりのプロとして、徹底的に拘った織物を社会に出したいと思っています。
なるほど。モノづくりへの強い思いを感じます。技術的な面では、他の織元との違いはどういった点ですか?
「織り」だけでなく「撚糸(ねんし) 」や「整経(せいけい) 」などの準備工程も自社で行っています。特に撚糸は、織機を動かすまでに、ヨコ糸に撚りをかける作業で、この作業は丹後ちりめん特有のシボを表現する上で大変重要です。他の多くの織元はこの工程を自社ではしないので、その点が独自性だと思います。
参照:丹後ちりめんの製造工程 https://tanko.or.jp/tangochirimen/process/
撚糸の工程から自社で行うと、ものづくりの柔軟性が上がりそうですね。
可能な範囲で良いので、今後はどんな織物を作っていこうとお考えか教えていただけますか?
地元の酒造とのコラボや”洗えるちりめん”を仕込んでいます。
酒造!丹後の地酒美味しいですよね。ちりめんは絹なので一般的には洗えないと思うのですが、”洗える”とはどういう意味ですか?
企業秘密です!
最後にこのwebメディアのコンセプトでもある「伝統工芸の次世代継承」についてご意見伺いたいです。一社の織物メーカーとして、次世代に伝統を繋ぐために意識されていることはありますか
織物の柄からデザインできるので、伝統的な柄に縛られず新しい柄を生み出していきたいです。というのも、どの時代でも織物メーカーはその時代にあった織柄を産んで、それが流行り、伝統柄として今に残っていると思います。古典柄は過去の流行です。自社もその時代にあった織柄を常に出し続け、数百年後に古典柄と呼ばれていると嬉しいです。革新が伝統を産む、これが本当の伝統的なものづくりの攻め方だと思っています。
革新を続けることが伝統になる。熱いです。
同じ丹後出身なので、ワタマサの活躍には目が離せないです。今回は取材を承諾いただき、ありがとうございました!
一緒に頑張りましょう。ありがとうございました!
編集後記
渡邊さん、着物姿がカッコ良かったです。あとワタマサの着物生地を実際に見て光沢が半端なかったです。(語彙力……) 動画で伝わっていると嬉しいです!余談ですが、以前取材させていただいた黒木織物の黒木さんとも親睦があるそうです。織り手同士でどういった話をするのか気になりますね。最後まで記事読んでいただきありがとうございました!僕の地元 丹後のモノづくり、応援のほどよろしくお願いします!!
取材協力:株式会社ワタマサ 渡邉さん
取材記者:伝統工芸学生アンバサダーとらくら 白江
記事・画像・動画撮影&編集:伝統工芸学生アンバサダーとらくら 白江