私たち石川・福井チームは遠方取材2日目の午後、輪島塗の工房である輪島キリモトさんを訪ねた。到着してまず始めに目に入ってきたのは、新しく作ったというデジタル工房だ。モダンで温かみのあるデザインで、周りの田園風景に溶け込んでいた。早く入ってみたいという気持ちを抑えながら、さっそく事務所を訪ねた。
今回は、主に社長の桐本泰一さんがお話をしてくださった。最初に、職人さんたちが実際に作業しているところを見せていただけることになった。
工房に入ってまず朴の木を削る段階を見せていただいた。ちょうど、かたくち(お酒を継ぐ器のこと)の口先をつくっていた。 小さいカンナ(指先で隠れてしまうくらいの大きさ!)を使い、細かいところまで滑らかにすることにより、液体を注ぐ時、液がスパッと気持ちよくきれるものができるという。繊細な作業を黙々とこなしている職人さんたちの姿がとてもかっこよかった。
そしてこんな作品も作っていた。これは以前、有名ホテルに納品した作品である、とおっしゃっていた。
これらの技術は、長く木に携わる仕事をしてきたからこそ成せる技だと感じた。
次に、漆を塗る段階を見せていただいた。拭き漆で木目を生かしたプレートを作る職人さん、沢山の木のヘラを使い分けながらコーヒーカップに漆を塗る職人さんなどが作業をしていた。木を削る時とはまた違う、独特の空気があるように思えた。平たい面・曲線のある面を問わず、均一に漆を塗れるという技術を持つ職人さんがいるからこそ、様々な作品を編み出せるし、質の良い漆器が生まれるのだろうと感じたまた、漆は気温25度、湿度70パーセント程度で乾くそうで、乾燥させる段階の時は部屋の環境をその温度湿度に近づけているとおしゃっていた。木を削りだして、形をつくり、そこに漆を塗るという漆器づくりの一連の流れを見ることができ、とても興味深かった。
その後、デジタル工房に移動して、様々なお話を伺った。7月22日にオープンしたばかり(訪ねたのは8月9日)だというそのスタジオは、まさに漆器のショールームだった。漆器が引き立つように明かりなども調整され、また全体的に気のぬくもりを生かした内装になっており、木と漆が引き立って見えた。
まず始めに、デジタル工房をつくったきっかけについてお話してくださった。「コロナで東京の店舗が閉店などして大変な時期に、リモートでの会議で使えそうな、人数がいても快適にかつ高画質で出来る最新鋭の機械に出会った。それを使って何かをしたいと思っていた時にちょうど、政府からの事業再構築補助金が出ることとなり、それを使い漆器のスタジオを建てられることとなった。」とおっしゃっていた。
そしてこのスタジオを使い、いろんな人に商品を見てもらいたいと考えたそうだ。リモート接客でも、お客さんの顔を見ながら様々な相談にも乗ることができ、事業の幅が広がる。また高画質のカメラを搭載しているため、画面を通してでも漆器の質感を伝えることができる。この機械を通して、漆器を知ることで将来的には実際に輪島に来てもられるようになったら良いとおっしゃっていた。
どこでもドアのように人とつながれたら。
スタジオ内には、キッチンもあり、実際に漆器に盛り付けをしたり、片付けの方法を実演できたりする。調理をしながら豊かな能登の食材にも触れることができる。(奥さんが発酵食品を教えたりできるらしい)このキッチンがあることにより、実際の使い方に近いものを見せられる。
その後、実際の商品や輪島塗についてのお話を伺った。その中でも印象に残っているのは、「輪島塗、知られているけど知られていない輪島塗」という言葉だ。とある調査によると、日本の四分の一ぐらいの人間が輪島塗を知っているのに、買われることが少ないそうだ。そこで若い層に輪島塗の魅力を伝えたいとおっしゃっていた。今の若い人に魅力を知ってもらうことで広報が大切だそうだ。自ら発信をして、興味を持ってくれた方と積極的に連絡を取っていき繋がりをつくっていくこと
そして奥さんが来て話はさらに盛り上がった。
その中で、輪島塗の漆器でお茶を飲ませて頂いた。初めてちゃんとした漆器お茶を飲んだが、つるつるとした気持ちの良い口触りで、とても気持ちがよかった。漆器を使うとホッとする、という言葉の意味がなんとなく分かった気がした。
おいしいお茶で一息しながら、桐本さん自身のことについて、輪島塗などの伝統工芸についてなどのお話を伺った。
桐本さんは、大学時代に受けたデザイン概論の講義の中での、「今を暮らす人たちがもっと気持ち良く、もう少しほっとする、便利になるどうしたらよいかを考えることがデザイン概論であり、そこから生まれたものがデザインされたものである。そして、常にHOWから考えずにWHATから考える。何をするべきかから考えるべきだ。」という言葉が今の行動の道標になっているそうだ。その考えがあったからこそ、コロナのこの状況で何をするべきかを考えることができ、漆のスタジオができた。伝統工芸にも人を感動させる力があると思うが、一人の力ではなかなか厳しいものがある。そのために多くの人のもとに飛んでいけるような、どこでもドアに近い機械を導入することから始めてみようと思ったとおっしゃっていた。
また、伝統工芸については、「今と昔で職業の選び方が違ってきていて、その中で意見の食い違いが起きていると感じる。そのため職人をやりたくてもやめていく人も多い。今の人同士が気持ちのキャッチボールができていない現実を変えていきたい。」
「日本にはこんなに心地の良い漆というものがあるのに、日本人が知らないのはもったいない。選択するのは自由だが、こんな素晴らしいものをつくれる国に育ったということを知ってほしい。」、と夫婦でおっしゃっていた。
そしてキリモトさんの特徴的な体制として、漆器の一貫生産制があげられるが、伝統工芸の中では分業制が多く一貫制は珍しい。この体制にすることでお客さんの顔を見ることができるようになったことは良かったが、一貫性にするのは簡単ではなく、人の気持ちに届く商品をつくりたいという目標があったからこそできたことだ、とおっしゃっていた。色々なお話を伺っているうちにあっという間に日が暮れていた。帰り際、沢山の輪島塗の職人さんがいる中で、キリモトさんに巡り合えて本当に良かったと思った。このような密度の濃いお話を聞くことができて、とても充実した時間を過ごせた。
輪島キリモトさんの職人方、そして桐本さん夫妻、貴重な時間を割いて頂き、本当にありがとうございました!
今回私達とらくらアンバサダーが遠方取材で訪れた全国15カ所の工房に「Z世代が本気で惚れた伝統工芸品大賞のトロフィー」を置いて帰りました。若者の力で工芸業界を盛り上げたい、そんな一心で日々活動をしています。
輪島キリモトさん
執筆者:相田悠花・伝統工芸学生アンバサダーとらくら4期生