2023夏【亀﨑染工 Part 2】社長さんにインタビュー!

九州

ではここからは、亀﨑染工の社長さんのお話を紹介したいと思います。私たちが亀﨑染工さんに直接取材をさせていただいた後、ZOOMで社長さんから直接お話をお聞きすることができました!

この仕事を継ごうと思ったきっかけとは。

 なんと最初はこの職業には絶対につきたくないと考えていたそうです。理由は、両親が仕事で忙しそうにしていたことを見て、また後継者として期待されることへの反発からのようでした。高校卒業後、レーサーを目指して神奈川県へ移ったそうですが、二年で成果が出せなければ修行に出るという約束をし、結果的に二年後、岐阜で相撲のぼりを作る工房に身を置くことになります。初めは継ぐ決断がまだできていなかったそうですが、その工房で同年代の印染の人々と出会い、全国に仲間がいることに気づいたそうです。そのご縁は今でも続いているようで、その時にできた全国の繋がりのおかげで、現在様々な挑戦ができる土台になっているそうです。

23歳で鹿児島に戻った社長さんは、染料や道具が異なる中でまた一からのスタートとなりました。経験を積んでいくうちに、お祝いに携われる今の仕事に魅力を感じ、お客様からの感謝に触れることにやりがいを感じるようになったそうです。この経験が積み重なり、30歳手前でこの仕事を継ぐことを決心するに至りました。

地域との関わりは深いのでしょうか?

 海外に航路を見出す工房も増えている昨今ですが、亀﨑染工は海外進出は考えておられるのでしょうか。社長さん曰く、地域のおかげで成り立っている仕事なので、地域を無視して仕事を進めてはいけないと感じているそうです。地域の祭りなどで使われる色には伝統や込められた意味があり、亀﨑染工の製品を通じて地域にその意味を伝えていきたいと考えておられます。とはいえ、最近では他の工房の低価格提供の情報が溢れており、地元の人に「なぜここはこのような価格帯なのか」と疑問を持たれることもあるそうです。そのため、今後亀﨑染工の仕事を、お客様にきちんと説明する必要があると感じているようです。伝統のある亀﨑染工だからこそできる「意味を伝えていく」仕事。地域とのつながりを非常に大切にしている社長さんの思いを強く感じました。

亀﨑染工ならではの強みはなんでしょうか?

 お客様への柔軟な対応が亀﨑染工の強みだと教えていただきました。技術の根幹は変えずにお客様の要望に合わせてアレンジを加え、それを形にできている点が亀﨑染工の強みのようです。例えば、お客様の要望で、手作業ではできないものも中にはあるそうです。しかし、そこで頑なに自分たちのやり方を押し通すのではなく、デジタル染色などを巧みに用いて対応されています。なぜそこまでお客様の要望に柔軟になれるのか。それは、お客様の「入り口」を広げることを何よりも重視されているからでした。印染という技術の知名度が落ちている現状を認識し、知ってもらう入り口を広げることに力を入れているようです。注文を受けた際には、手作業とデジタルの利点をそれぞれ説明し、時には新しい技法を交えながら、最高の商品を届けておられます。新しいデザイナーとの協働で制作をしたり、伝統を生かしつつも、新しいことに挑戦する姿勢が、亀﨑染工の特徴となっています。

今後の目標を教えていただけますか? 

現在染色業界は全体で、後継者問題という共通の課題に直面しています。かつて印染業界は、戦前には1万人以上の職人がいる大規模なものでしたが、戦後にその1/10に減少し、現在は500人強から300〜400人前後にまで減少しています。10000人以上職人がいた頃には、ほぼすべての作業が職人の手作業で行われていましたが、今では職人といえる職人がほとんど存在していないそうです。現在、一人親方で運営されているところは、職人が全て手作業でやっていた世代の人が多いそうで、今後ますます廃業が進むと予想されています。加えて、職人が使う道具ですら急速に減少しており、道具自体も自分たちで作らなければならないという問題にも直面しています。V字回復も現状維持もどちらも難しいというのが、染色業界の現状だそうです。

 この困難な状況に対処するため、亀﨑染工は自社の存続だけでなく、同業者や近い業者、さらに異業種とも連携し、手を取り合っていくことを目指しています。個々の企業が「点」として頑張るのではなく、業界全体で協力し、「面」で協働することを図っています。

 その昔、他工房の倒産はライバルがいなくなったことを示すものでしたが、現在は業界の衰退を象徴するようになりました。そこで、亀﨑染工が今取り組もうとしていることは、自分たちが業界を先導する役割を担うことです。失敗を恐れず、他の工房が真似したくなるような成果を率先してを残すことで、業界全体を刷新し、新たなスタンダードを確立していきたいと考えています。亀﨑染工は、そのモデルケースとなり、濃密で意義のある仕事を通じて、業界の未来を牽引していくことを目指しています。

はじめは染め物の仕事を継ぎたくないと思われていたのに、今では業界全体を引っ張っていくほどの熱意を仕事に向けている社長さんの変化が印象的です。色々な方との出会い、そしてお祝いに関われる仕事の魅力が、決め手となって大きく舵をきられた社長さん、最高にかっこよかったです!!

「失敗をおそれず、どんどん新しいことに挑戦することで業界全体をひっぱっていく。」

社長さんのお言葉にも、そして亀崎染工全体にも熱いエネルギーを感じました。われわれが取材を依頼した際に、本当に快く取材を受け入れてくださった点も、亀﨑染工の新しい出会いを積極的に受け入れていくという姿勢があるからこそなのだと、改めて認識しました。きっと亀崎染工のパワーが染め物業界に革命をもたらし、ひいては伝統工芸の業界全体の底上げに繋がるのではないか。そう感じるほど、エネルギーに満ちた工房でした。

職人さんにインタビュー

 工房へお邪魔してみて、驚いたことがあります。それは、若い、しかも女性が職場に沢山いらっしゃったことです。私はもう10工房ほど取材させていただきましたが、どの工房も基本的に男性中心で、しかもお年を召した方が多かったです。そんな中、出迎えてくださった職人さんも、工房を案内してくださった職人さんも、どちらも20代の女性でした。なぜこの工房を選んだのか。お聞きしてみました。

(お仕事で忙しくされている中、快く質問に答えてくださいました!)

取材を受けてくださった職人さん

 一人目の職人さんは、鹿児島市出身の女性の職人さんでした。以前別のお仕事をしていたとのことですが、ものづくりに携わりたいという思いからこちらに転職されてきたということでした。亀﨑染工を見つけたきっかけは、テレビでこちらが紹介されているのを見たことだったようです。さらにインスタグラムで調べてみて、大漁旗に魅了され、こちらに決めたとのことでした。はじめて亀﨑染工にきた時は率直に、「みんな優しそう」と感じたそうです。その感想は、私が工房にお邪魔したときも感じた感想でした。何か活気があって、暖かい空気感の漂っている工房が、若い職人さんを呼ぶ秘訣なのかもしれません。

 もう一人の職人さんは、栃木出身の女性の職人さんで、東京の美大に通っており、在学時代から染め物に関心を持っていたそうです。そのため、将来も染め物に携わりたいとの思いから就職先を調べていた際、亀﨑染工さんを見つけたそうです。亀﨑染工さんを最終的に選んだ決め手は、「ここの大漁旗が一番魅力的に感じた。一番染め方が綺麗だった。」ということでした。大漁旗は染め場によって全く印象が違うとのことで、この染め場だから出る表情に惹かれたとのことでした。

どの職人さんも、”思い”から職場を選ばれたということが印象的です。逆に言えば、この仕事において、「思い」が非常に重要で、思いさえあればどのような方でも職人を目指すことができるのかもしれません。人のお祝いに携わりたい、伝統工芸を盛り上げたい、、、、。もしこの記事を読んでいる方がそのような思いを持っているのであれば、ぜひ工房に赴いて、職人さん方の熱い思いを聞いてみて欲しいと思います。

亀﨑染工の皆様、大変貴重なお話をして頂き、誠にありがとうございました!✨

亀﨑染工:https://www.kamesome.co.jp

執筆者:中村ひかる(とらくら3期生)

伝統工芸学生アンバサダーとらくらは「伝統工芸を未来と世界に」をビジョンに活動する学生団体です!

佐伯 葉奈

佐伯 葉奈

アイヌ・アートの魅力にどっぷりはまり中。都内在住の大学です!

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