雪花絞で有名な「日本一高い浴衣」や「最高級のはごろも木綿」をプロデュースする藤井絞の藤井社長にお話を聞きました。
京都の新町通りにある京町家の中にオフィスや展示スペースを構えられています。
入り口は小さく見えますが、中に入ると縦に空間が広がっていていくつもの部屋があるという作り。古くからある伝統的な作りの建物だそうです。
代表作は、七緒の表紙掲載、金麦CMでの着用でブームを起こした雪花絞りの浴衣、絹と間違える肌触りの「はごろも木綿」。
雪花絞りは、連続した模様と淡い輪郭、色合いを生かした素敵なデザインで不動の大人気商品となっています。
また、はごろも木綿はその名の通りはごろものように触り心地がよく絹のよう。こちらもメディアで取り上げられ展示会でも注目される逸品です。
実はどちらも従来では想像できなかった商品。伝統的な考えに囚われず常に新しいものを企画する藤井絞の姿勢によって生み出されました。
今回は、この2商品の裏話と藤井絞の作品を作る姿勢、絞りの見分け方についてご紹介します。
雪花絞りの由来は子供のおしめ柄だった!?
もともとは子供のおしめに使われる模様でした。
藤井社長がこの柄に出会ったのは、偶然見ていた資料。
見た瞬間すばらしいと思い、必ずヒットすると確信があったそうです。
ただ今までは綿100%にしか染めたことがない技術でした。
藤井絞の着やすい綿麻の生地に安定的に染められるようにするまでは大変な苦労があります。
今までの生地と染料の浸透度が違い、最初は不良品が多かったり、綿ほどキレイに出来上がらなかったりで、なかなか安定した柄を出していくのは難しかったそうです。
しかし、職人である張正さんの研究と努力のおかげで、すばらしい浴衣に。
今の感覚で見直して、連続した柄と捉えることで現代の感覚で色付けし浴衣に使われるようにしていきました。
連続した柄なのに、どこか柔らかくどれも少し違う風合いに見えるのも面白いです。
また、これは綿麻素材の特徴なのですが、同じ色で染めても染めの上がりも違えば着味も違う。同じものが2つとなく、全てが一点ものであることが、最大の魅力です。
その後、平成19年『七緒』の表紙に出て、一躍脚光を浴びることになります。平成21年に金麦のCMで着て頂き、雪花絞の生産が追いつかない状況にまでなっていきました。
今でも変わらずヒット商品です。浴衣としては一番高いと称されますが、質が良いので色々な使い方ができそうです。
着心地と品格を持ち合わせた「はごろも木綿」
次にご紹介するのは、着物好きがみても絹と思ってしまう木綿の着物。
元々は、5月から9月の5ヶ月をターゲットにした雪花絞の浴衣が人気を博していることより、10月から4月に着るものも作れないかという考えからスタートした商品です。
コンセプトは「自然素材で家で洗え気軽に着られるが、木綿に見えない着姿と着心地」。
そこで京鹿の子絞を綿麻や木綿に施し、高品質で着やすいものを作ることにしました。
もともと「京鹿の子絞」は絹に施す技術で、綿麻に展開するのは本流ではありません。
しかし本流や従来のやり方に固執せず良いものを追い求めるのが藤井絞。その姿勢が、雪花絞りも今の藤井絞にも繋がっています。
絹は上等で綿麻は下級というイメージがあったそうですが、従来の木綿のイメージを変える素材を目指し、試織を重ねました。
名前もSNSやYouTubeで募集し、100通近いご応募の中から親しみやすい「はごろ木綿」というネーミングに決定。
そんな藤井絞さんの商品の作り方や姿勢についてお聞きしました。
従来のやり方に囚われず、良いものは組み合わせて売れるものを作る。
技術が、伝統が、ではなく純粋に何が良いかを見ている藤井絞。
藤井社長は毎日自分でいろんな着物を着て、自分が着たいと思うもの、絶対にいいと思うものを作るべく、着心地に拘られています。
この技術や工法は絹、綿というように凝り固まるのでなく、いろいろ組み合わせて新しく素敵なものを作っていく。絹1つの着物を作るより綿麻や浴衣を作る方が売れやすく実入りが良いことも考えられます。
仕事が無くなったり滞ったりするより、定期的にちゃんと仕事がある方が良いと気付き、問屋をやめて自社での商品開発に挑戦するようになったのだそうです。
そして、大量生産でなくそれなりのお値段毎日1人ずつ全国で当てていく、ファンに届けることをしていく方針で、イベントやSNSにも力を入れていれられています。
イベントや毎日の着用で、何がいいかを見極める感性をはり巡ることを心がけて売れるものを作れる環境を作り続けるのが使命だと藤井社長は語られます。
技術がすごいから生地がすごいからというだけで思考停止せず、何が良いのか良いと思ってもらえるのかを考え感性を研ぎ澄ましている藤井絞のセンスに触れることができました。
そう言った努力と感性によって、藤井絞の商品は売値を全国どこでも統一してお客様に届けられています。
業界が全体的に縮小する中でも、売れ続ける商品を生み出す藤井絞。内部に職人を抱えているわけではありません。作るものに合わせて、各工程を日本各地の職人に依頼をして製作されています。
いわば、オーケストラの指揮者やディレクター のような役割の作り手です。
藤井絞の挑戦は業界や職人さんにとても大きな機会になっているのです。
(次の記事では絞り染めと生地についてご紹介します。)