今回の記事では主に工房見学の様子をお伝えしていきます!
工房見学
箔を商品に貼る工場では、最新の空調技術が設置されていました。これは、作業する方にとって快適な空間を作り、かつ空気によって精密な金箔を貼る作業を邪魔しないようにするという高性能のものでした。この他にも、作業する人にとって働きやすい環境づくりが徹底されていました。これは「いいものをつくるためには、いい環境がなければならない」という思いからきているそうです。また、箔一さんでは金だけでなく様々な金属私達作っているそうで、たくさんのサンプルが壁一面に広がっていました。さらに、金箔を打つ工程も見させて頂きました。
金と少量の銅、銀を含んだ合金を型に流し込みます↓
この圧延機で帯状に延ばし、100分の2~3mmまで薄くします。これを「小兵(こっぺ)」というそうです↓
こちらは箔打ち機。たくさんの機械が箔を打っていました↓
最後に「引き入れ」という作業。これは箔の前である上澄みという状態のものを箔打紙に移していく作業だそうです↓
金箔のこれからの可能性と課題へのアプローチ
「他の工芸のように、何かに根ざしているというのはないかもしれない。ただ、その制限のなさが金箔の可能性を広げている。」
素材であった金箔を表舞台へ、との思いで発展し見事に金沢金箔の知名度を確立させてきた箔一さん。しかし今回のコロナの影響で収入が減少し、商品が観光客依存であったことに気づかれたそうです。確かに他の工芸品は生活や文化に根ざしているものが多いですが、金箔という素材を見ると、生活に根ざすというよりは特別感があるものという印象があります。箔一さんはこれは逆に金箔の強みなのではと考えているそうです。
箔一さんは今、金箔の可能性活かして様々な商品開発に取り組んでいます。そしてこの商品開発では、目の前にいる人が金箔のよさに気づく、物としての良さに感動するものを心がけて作っているそうです。これまで箔一さんの商品は、建築分野・食品分野・美容分野・工芸分野など様々な分野で展開されてきました。これからも金箔が秘める可能性を、様々な分野に応用し挑戦していく姿はとても素敵だなと感じました。
大企業ならではの強さ
箔一さんの発展の理由として工芸業界では珍しい特徴的な企業体制にもあります。
多くの工房が分業体制かつ少人数で生産しているのに対し、箔一さんは大きな工場を持ち、また従業員も多く抱える大企業です。そして製造から販売まで手掛ける一貫生産を行っています。今回製造現場の見学を通して、その商品の多様性に非常に驚きました。これも一貫生産だからできることだそうです。またこの商品を作る際にもこの大企業という特性が活きているように感じます。商品開発の際には社員全員からアイディアを募集しているそうです。
また最近ではデジタルを導入して作業を効率化し、ものづくりに集中できるように環境を整備しているそうです。まさに伝統工芸の課題であった、販売力・商品開発力・流通などへの上手いアプローチができてると感じました。
最後に興味深かった点として、伝統工芸師が元サラリーマンだということです。箔一さんに在籍しておられる金箔の伝統工芸師さんは当初は販売などを行っていた方で、そこから技術を学び伝統工芸師になったそうです。サラリーマンが伝統工芸になるというのは非常に新鮮でおもしろかったです。
あとがき
金箔を日常に浸透させるべく新に開発されている商品と、古き良き伝統を重んじる工芸としての金箔。取材を通して、この二つの側面を上手く活用し程よい距離感をとることは至難の技なのでは無いかと感じました。思うに、多くの工芸の真髄は「単なる物」ではなく使うその先にある「文化」にあるのでは無いでしょうか。例え庶民的な商品でも、一部の許された人だけが持っていたものでも、そこには日本人が持つ「文化」が隠されていると思います。
私自身、当初は「金箔が普段の生活に入るってなるとどうなるんだろ」とあまり想像がつきませんでした。しかし金箔は変幻自在で、少し添えるだけで全体に特別感を与えてくれる。取材を通してそう思えました。一方で金箔の持つ非現実感は良くも悪くも、普段の生活に浸透させるのは難しいのかもしれない。しかし、これこそが金箔の強みではないでしょうか?
金箔があれば、毎日のちょっとした瞬間を特別にできる。日々の一瞬を優美なものにするその気遣い、ここに日本文化の持つ奥ゆかさや美しさを感じました。取材を通して、箔一さんが金箔を「素材」から「主役」へと変貌させたその先のステージは一体どんな可能性に溢れているだろうなと、楽しみになりました。
金箔から工芸全体を盛り上げていく。取材を通し箔一さんの情熱を感じ、私達若者ももっと力になれるよう頑張ろうと思いました。最後にお話を聞かせて頂いた社員の皆様、ありがとうございました。
今回私達とらくらアンバサダーが遠方取材で訪れた全国15カ所の工房に「Z世代が本気で惚れた伝統工芸品大賞のトロフィー」を置いて帰りました。若者の力で工芸業界を盛り上げたい、そんな一心で日々活動をしています。
株式会社 箔一(ハクイチ)
執筆者:東谷湧太
とらくらとは?
「工芸の魅力を世界と若者に伝える」をvisionに掲げて活動するインカレ学生団体です。日本の伝統文化や工芸に興味がある全国の学生が集まり、「取材」を通して若者の目線からその魅力を発信しています。伝統工芸のwebメディアへの記事執筆やSNSでの発信、また他の学生団体とのコラボイベントも行います。