金沢取材〜金箔の製造工程 in箔一②

中部

今回の記事では主に工房見学の様子をお伝えしていきます!

工房見学

箔を商品に貼る工場では、最新の空調技術が設置されていました。これは、作業する方にとって快適な空間を作り、かつ空気によって精密な金箔を貼る作業を邪魔しないようにするという高性能のものでした。この他にも、作業する人にとって働きやすい環境づくりが徹底されていました。これは「いいものをつくるためには、いい環境がなければならない」という思いからきているそうです。また、箔一さんでは金だけでなく様々な金属私達作っているそうで、たくさんのサンプルが壁一面に広がっていました。さらに、金箔を打つ工程も見させて頂きました。

金と少量の銅、銀を含んだ合金を型に流し込みます↓


この圧延機で帯状に延ばし、100分の2~3mmまで薄くします。これを「小兵(こっぺ)」というそうです↓


こちらは箔打ち機。たくさんの機械が箔を打っていました↓

最後に「引き入れ」という作業。これは箔の前である上澄みという状態のものを箔打紙に移していく作業だそうです↓

金箔のこれからの可能性と課題へのアプローチ

「他の工芸のように、何かに根ざしているというのはないかもしれない。ただ、その制限のなさが金箔の可能性を広げている。」

素材であった金箔を表舞台へ、との思いで発展し見事に金沢金箔の知名度を確立させてきた箔一さん。しかし今回のコロナの影響で収入が減少し、商品が観光客依存であったことに気づかれたそうです。確かに他の工芸品は生活や文化に根ざしているものが多いですが、金箔という素材を見ると、生活に根ざすというよりは特別感があるものという印象があります。箔一さんはこれは逆に金箔の強みなのではと考えているそうです。

箔一さんは今、金箔の可能性活かして様々な商品開発に取り組んでいます。そしてこの商品開発では、目の前にいる人が金箔のよさに気づく、物としての良さに感動するものを心がけて作っているそうです。これまで箔一さんの商品は、建築分野・食品分野・美容分野・工芸分野など様々な分野で展開されてきました。これからも金箔が秘める可能性を、様々な分野に応用し挑戦していく姿はとても素敵だなと感じました。


大企業ならではの強さ

箔一さんの発展の理由として工芸業界では珍しい特徴的な企業体制にもあります。

多くの工房が分業体制かつ少人数で生産しているのに対し、箔一さんは大きな工場を持ち、また従業員も多く抱える大企業です。そして製造から販売まで手掛ける一貫生産を行っています。今回製造現場の見学を通して、その商品の多様性に非常に驚きました。これも一貫生産だからできることだそうです。またこの商品を作る際にもこの大企業という特性が活きているように感じます。商品開発の際には社員全員からアイディアを募集しているそうです。


また最近ではデジタルを導入して作業を効率化し、ものづくりに集中できるように環境を整備しているそうです。まさに伝統工芸の課題であった、販売力・商品開発力・流通などへの上手いアプローチができてると感じました。

最後に興味深かった点として、伝統工芸師が元サラリーマンだということです。箔一さんに在籍しておられる金箔の伝統工芸師さんは当初は販売などを行っていた方で、そこから技術を学び伝統工芸師になったそうです。サラリーマンが伝統工芸になるというのは非常に新鮮でおもしろかったです。

あとがき

金箔を日常に浸透させるべく新に開発されている商品と、古き良き伝統を重んじる工芸としての金箔。取材を通して、この二つの側面を上手く活用し程よい距離感をとることは至難の技なのでは無いかと感じました。思うに、多くの工芸の真髄は「単なる物」ではなく使うその先にある「文化」にあるのでは無いでしょうか。例え庶民的な商品でも、一部の許された人だけが持っていたものでも、そこには日本人が持つ「文化」が隠されていると思います。

私自身、当初は「金箔が普段の生活に入るってなるとどうなるんだろ」とあまり想像がつきませんでした。しかし金箔は変幻自在で、少し添えるだけで全体に特別感を与えてくれる。取材を通してそう思えました。一方で金箔の持つ非現実感は良くも悪くも、普段の生活に浸透させるのは難しいのかもしれない。しかし、これこそが金箔の強みではないでしょうか?

金箔があれば、毎日のちょっとした瞬間を特別にできる。日々の一瞬を優美なものにするその気遣い、ここに日本文化の持つ奥ゆかさや美しさを感じました。取材を通して、箔一さんが金箔を「素材」から「主役」へと変貌させたその先のステージは一体どんな可能性に溢れているだろうなと、楽しみになりました。

トロフィー贈呈の様子

金箔から工芸全体を盛り上げていく。取材を通し箔一さんの情熱を感じ、私達若者ももっと力になれるよう頑張ろうと思いました。最後にお話を聞かせて頂いた社員の皆様、ありがとうございました。

贈呈させて頂いたトロフィー

今回私達とらくらアンバサダーが遠方取材で訪れた全国15カ所の工房に「Z世代が本気で惚れた伝統工芸品大賞のトロフィー」を置いて帰りました。若者の力で工芸業界を盛り上げたい、そんな一心で日々活動をしています。

株式会社 箔一(ハクイチ)

https://www.hakuichi.co.jp/goldleaf/

執筆者:東谷湧太

とらくらとは?

工芸の魅力を世界と若者に伝える」をvisionに掲げて活動するインカレ学生団体です。日本の伝統文化や工芸に興味がある全国の学生が集まり、「取材」を通して若者の目線からその魅力を発信しています。伝統工芸のwebメディアへの記事執筆やSNSでの発信、また他の学生団体とのコラボイベントも行います。   

伝統工芸学生アンバサダーとらくらは「伝統工芸を未来と世界に」をビジョンに活動する学生団体です!

関連記事

特集記事

おすすめ記事

  1. 地域を盛り上げたいという想いから始まった眼鏡ブランド

  2. 金沢取材〜金箔の製造工程 in箔一②

  3. 【注目イベント速報】TOKYO DENTOKOUGEI FACTORY~伝統工芸の職人技とふれあえる5日間~ KITTEに7月21日~25日まで限定ショールームが開設。

  4. うるしの歴史

  5. これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  6. 新しい商品を作り上げる姿勢と作り方 藤井絞 part1.

  7.  【丹後ちりめん】絹糸の魔術師ワタマサが仕掛ける織物ブランド

  8. 【着物メディア編集長に聞く!】20代は知らない!?着物業界のリアル。

  9. 【有田焼 李参平窯】陶祖の想いを再興する十四代李参平の挑戦。

  10. 【久留米絣】いにしえのロマンを語る “野村織物” の洋服への挑戦

最近の記事

  1. 日本の伝統工藝を未来につなぐ、「伝え手」と「作り手」になる合宿型プログラム「awaIntern」開催決定!

  2. 【2023夏】宮島の工芸店「signal」

  3. 【2023 夏】しゃもじ!宮島工芸製作所 とらくらin 広島

  4. 2023夏【和紙てまり・藍てまり】松江にしかない!?和紙てまり・藍てまり 

  5. 【完全保存版】京都府の伝統工芸品「西陣織」とは。特徴や歴史、種類まで徹底解説!

  6. 2023夏【和紙ギャラリー】「紙は神に通ず」~ 鹿児島県

  7. 2023夏【高橋鍛冶屋】かぼちゃからお刺身まで!30年以上使える伝統の包丁

  8. 2023夏【亀﨑染工 Part 2】社長さんにインタビュー!

  9. 2023夏【亀﨑染工 Part 1】信頼関係が生む、若手の成長の速さ。工芸のイメージががらりと変わる体験をしました!

  10. 2023夏【岩切美巧堂】熱き職人魂とともに発展し続ける薩摩錫器

ランキング

  1. 1

    加賀友禅と京友禅~武士と貴族の感性の違いが一目瞭然!~

  2. 2

    お茶室のふしぎ。3月のお茶室「釣釜」があるのはなぜ?

  3. 3

    上野戦争について詳しく解説してみた〜②大村益次郎の作戦〜

  4. 4

    伝統工芸×体験2 螺鈿細工

  5. 5

    これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  6. 6

    『バカ塗』を世界へ~津軽塗職人父娘の挑戦~ 高森美由紀『ジャパン・ディグニティ』工芸×本

  7. 7

    【博多織 黒木織物】未経験でも”職人”になれる!? (前編)

  8. 8

    上野戦争について詳しく解説してみた〜①彰義隊について〜

  9. 9

    工芸×本 アンバサダーがおすすめする工芸についての本4冊!

  10. 10

    【伝統工芸✖︎大学生】とらくらは約15箇所の工房取材を予定!企画応援者を「スポンサー券」と「NFT」で募集!支援金は取材経費とトロフィー贈呈に

最新 人気 特集
  1. 日本の伝統工藝を未来につなぐ、「伝え手」と「作り手」になる合宿型プログラム「awaIntern」開催決定!

  2. 【2023夏】宮島の工芸店「signal」

  3. 【2023 夏】しゃもじ!宮島工芸製作所 とらくらin 広島

  4. 2023夏【和紙てまり・藍てまり】松江にしかない!?和紙てまり・藍てまり 

  5. 【完全保存版】京都府の伝統工芸品「西陣織」とは。特徴や歴史、種類まで徹底解説!

  6. 2023夏【和紙ギャラリー】「紙は神に通ず」~ 鹿児島県

  7. 2023夏【高橋鍛冶屋】かぼちゃからお刺身まで!30年以上使える伝統の包丁

  8. 2023夏【亀﨑染工 Part 2】社長さんにインタビュー!

  9. 2023夏【亀﨑染工 Part 1】信頼関係が生む、若手の成長の速さ。工芸のイメージががらりと変わる体験をしました!

  10. 2023夏【岩切美巧堂】熱き職人魂とともに発展し続ける薩摩錫器

  1. 地域を盛り上げたいという想いから始まった眼鏡ブランド

  2. 金沢取材〜金箔の製造工程 in箔一②

  3. 【注目イベント速報】TOKYO DENTOKOUGEI FACTORY~伝統工芸の職人技とふれあえる5日間~ KITTEに7月21日~25日まで限定ショールームが開設。

  4. うるしの歴史

  5. これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  6. 新しい商品を作り上げる姿勢と作り方 藤井絞 part1.

  7.  【丹後ちりめん】絹糸の魔術師ワタマサが仕掛ける織物ブランド

  8. 【着物メディア編集長に聞く!】20代は知らない!?着物業界のリアル。

  9. 【有田焼 李参平窯】陶祖の想いを再興する十四代李参平の挑戦。

  10. 【久留米絣】いにしえのロマンを語る “野村織物” の洋服への挑戦

  1. 着物ってどうやってカタチができるの?和服縫製のプロに聞いてみました!

  2. これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  3. 新しい商品を作り上げる姿勢と作り方 藤井絞 part1.

  4.  【丹後ちりめん】絹糸の魔術師ワタマサが仕掛ける織物ブランド

  5. 【着物メディア編集長に聞く!】20代は知らない!?着物業界のリアル。

  6. 【有田焼 李参平窯】陶祖の想いを再興する十四代李参平の挑戦。

  7. 【久留米絣】いにしえのロマンを語る “野村織物” の洋服への挑戦

  8. 【アリタポーセリンラボ】世界のラグジュアリー市場へ挑む秘策とは。

  9. 【博多織 黒木織物】異業種とのコラボに挑戦!? (後編)

  10. 【博多織 黒木織物】未経験でも”職人”になれる!? (前編)

TOP