等身大の言葉で語りあう。工芸ってなんだろう?前編

りりちゃ

伝統工芸アンバサダー「とらくら」で理事を務める山田璃々子(慶應義塾大学3年)と吉村萌(立教大学3年)が、自分たちにとっての工芸とは何か立ち返り、とらくらを通して発信したいことを語り合う。前編では、そもそも二人が「工芸」に関心を持ったきっかけはなんだったのか問い、「とらくら」の輪郭を明らかにしていく。

今回対談したのは

山田璃々子(慶應義塾大学3年)
お茶が織りなすリズムに心惹かれ、キッチンカーを用いたカフェをつくったりお茶農家さんと一緒にお茶を販売してきました。その経験を通じて「お茶の個性をもっと自分の目で見て聞いて触って伝えられるようになりたい」と思うようになり、全国の茶畑を巡っています。とらくらでは、歴史の文脈から「お茶」について考えていきます!

吉村萌(立教大学3年)
新選組を始め日本の歴史に中学生の頃ハマり、日本文化に興味を持ちました。
とらくらでは私の好きな日本の歴史に工芸がどのように関わってきたのか皆さんと一緒に紐解いていきたいと思っています。

記事のポイント

・伝統工芸を通して伝えたいものは自分たちの中にある日本らしさ
・伝統工芸のキーワードは「大切」
・工芸の持つ力、それは先人の営みや知恵が知恵

工芸に関心を持ったきっかけ 

吉村:理事の立教大学観光学部3年生吉村萌です。よろしくお願いします。

山田:では、同じく理事の慶應義塾大学環境情報学部3年の山田璃々子です。よろしくお願いします。

吉村:改まって工芸の話を2人でするなんてなんだか新鮮笑

山田:そうだよね、歴史やお茶、日本文化に関する話はよくするけれどね。

吉村:早速、お茶に関心があるりりこちゃんが工芸に関心を持ったきっかけってなんですか?

山田:私は工芸に興味を持ったのは、結構最近のことで、お茶を始めてから、職人さんが作ったものに触れる機会が増えたことが大きいです。例えば、千利休さんの展示会に行った時に知ったんだけど、千利休さんは楽長次郎さんていう職人さんと一緒に器を作ったり茶室を設計したりしていらして、、、。お茶と工芸はのすごく密接に関係して、工芸はお茶の歴史を語る上でも切り離せない物なので学んでみたいなと思ったのが最初ですね。

吉村:そうなんだ。千利休さんが茶碗作りとかに関係してるの全然知らなかった。

山田:千利休さんはプロデュースからデザインまでできるハイブリッドな方のかなと思って、かっこいいなと思ってる。(笑)あと、富士釜っていう窯を使った茶会があったの。富士山の形をした窯で、自然の中にあるものを自然物だけじゃなくて工芸を用いていて。茶室の中にいても季節を感じさせるところに心惹かれたから工芸も勉強してみたいなって思った。

吉村:そうだったんだ。たしかに窯だけじゃなくてお茶碗にも季節のものとか描かれていて、茶道の中の作法の一つとして茶碗を眺める時間があって、茶道の中でも工芸一つ大きい要素だよね。

山田:そうだよね、私はそういう切り口から勉強してみたい。めぐちゃんの工芸に関心を持ったきかっけは?

吉村:私は実家で父方のおじいちゃんおばあちゃんと一緒に住んでて、日本の伝統行事は大事にしてる家庭環境にあったの。だから工芸が家の中には沢山あって。両親が日本文化とか歴史とか好きで博物館とか神社仏閣に小さい頃からよく連れて行ってくれたから日本文化に触れるのが当たり前な環境にいたのがきっかけかな。でも幼い頃は工芸に対して、地味で見ても楽しくないって思っていて、あまり関心がなくて(笑)そんな中、中学生の頃母さんに無理やり薩摩切子の店に連れて行ってもらったことがあって、綺麗だって感動してから工芸に関心を持つようになった。薩摩切子との出会いが工芸って、地味で面白くないっていう価値感から、歴史があって情報量が多くてかっこいいなっていう考えに変わった。

山田:へぇ!それはすごい。伝統工芸を発信していこうと気持ちが変化したきっかけは…?

吉村:伝統工芸を世界に広めたいと思ったのは結構最近。大学2年生の夏に成人式の振袖選びでジェットプリントと京友禅の作家さんが染めたものを見比べる機会があって、質感から雰囲気まで全然違って、これが日本が代々受け継いできた技術だということに感動したのがきっかけ。日本の伝統工芸が後継者不足とかで廃れつつあることは知ってて、こんなに素晴らしいものなのに知られていないのはもったいないなと思って日本人に、世界に伝えていければなと思ったなぁ。

山田:そうなんだね。めぐちゃんの家が伝統行事を大事にしてたっていう話があったように私の家も行事とか季節感のあるものが食卓に並べることを自然と大切にしていて。自然のめぐりに沿った生活が心地良いなと思っことがきっかけ。雨が降っても雨だって落ち込むんじゃなくて「雨の音、意外と良いな」って感じたり、自然のものが取り入れられて、外にいるような気持ちになったりとか、、、。自然の雨とか風とかそういったものすら悲観的じゃなくて肯定的に捉えてみるところに惹かれていた。そうした自然に沿った生活をみんなと共有したいと思うようになったかな。

ふたりなりの「伝統工芸」とは

山田:私はどこかの誰かの知恵が詰まっているのが「伝統工芸」なのかなと思ってる。茶道で用いる「釣釜」がいい例かも。この間とらくらのコラム(※1)に書いたのだけど3月は「釣釜」というお釜を使うのね。「釣釜」は名前の通り天井から吊られてる釜、「炉開き」(※2)からずっと使っていると、灰が溜まってお釜に灰がついてしまうから、それを避けるために3月はから上から吊るして沸かすんだって。今、「釣釜」を使うってことは「伝統」という形で教わるけれど、おそらく作った人たちって灰が溜まってお釜がだめになっていく様子を見て「釣釜を作らなくては!」作ったんだと思うの。それってすごいなって。一緒に生きる生活を具現化している、先人からの贈り物のような感覚でいるかな。

吉村:なるほど。私も「伝統工芸」に対して思ってるところは似ていて、りりこちゃんが言ったみたいに言語化できない茶道とかに流れてる四季を愛でる心とか侘び寂びとか日本人らしさを形として表現したものが工芸なんじゃないかなと思ってる。
それって、私達の中に当たり前に存在していて、見たり伝えたりする事が難しくて、工芸は普段の日本にある流れている四季とかとか当たり前の流れを振り返るきっかけになりえるものになり得るんじゃないかなって思ってる。

山田:そう考えると工芸って自然を翻訳したものとも捉えられるかもしれないね。私は自然を見たときと工芸に触れた時、なんだか似ている感覚になることがあって、、、。 この感覚って何なんだろうなとお話聞きながら考えていたのだけど、言葉で表すと「感性に刺さる」かなと思った。
私も普段はコンクリートやプラスチックに囲まれて生活してるしそれを選んで使ってることもあるから、否定はできないけど、工芸品を使ってる時とそうじゃない時で違うなって思うことがある。触れるにしてもただつるつるしているだけじゃなくて感性が豊かになるというか、潤うというか。笑色でいうと工芸品には彩りがある。心惹かれるって言えばいいのかな、、、。難しい、、、。

吉村:それこそプラスチックのものって壊れてしまってもすぐに同じものが買えるじゃん。
工芸品って割っちゃったらもう二度と同じもの手に入らないから使うときに割っちゃいけないって思ったり、今の時代ではなかなかない何か物を大切にする瞬間が工芸に触れてるときは生まれるなって感じる。

山田:たしかに、工芸の中で「大切」って言葉がキーワードかも。
一つは物を大切にするという事教えてくれるところ。もう一つは物を大切にすることによって自分を大切にすることを思い起こさせてくれるところかなと思う。
工芸を自然を翻訳したものと捉えると家の中に自然があるって言えて…
どんどん変化して錆びながらもそばにいてくれてすごい感性を開かせてもらってるなって思う。
忙しかったりタスクに追われているときって自分の声を聞く機会ってそんなにないけど、びびっと感じる心の動きを「工芸」に私は感じるのかなって今思った。

吉村:なるほど。さっき家の中に自然がいっぱいあるって言った時ふと思ったのが昔の家には庭があったり、外が見えやすい構造で嫌でも四季を感じさせられてたけど、今はカーテン閉めたら外の気温とか季節とかわかわないくらい人間の生活から自然が離れていってるなって思って、、、。
それでも私は人間は自然の輪の中にいると思うし、3.11からもやっぱり人って自然の力にどれだけ頑張っても叶わないことは明確なのにそれを普段の生活では忘れてしまいがちだなと思う。でも、日本の文化として四季を愛でたり自然の流れを感じるみたいなところが「工芸」には詰まってるから、人間は自然の中の生き物なんだよっていうのを振返させる瞬間みたいなものが工芸というか日本文化にはあると思う。

山田:そうだね。自然を自分たちがコントロールしているようで、実際はそんな事全く無くて3.11の話でも二次災害の原発は自然に対して私達が与えていた負荷によって起こっているという文献にも触れたことがあったな。「自然の中に人間はいるしその中で営みをしている」って私もそう思うことが多い。そういった人間は自然の中にいるってことも工芸は立ち返らせてくれるものかもしれないね。そして工芸に触れることで一歩立ち止まって、「私、器の触り心地すごい好きだ」とか、自分の素直な状態に戻って自然と対話できるなって思う。自然と対話することを手元に来て教えてくれるのが工芸なのかも、やっぱり自然を翻訳してるのが工芸なのかな.、、、。

吉村:確かに、あと自然の翻訳っていう要素があると私も思っているんだけどそれに加えて、人々のこれまでの生活が工芸から汲み取れるなと思う。これは「民芸」になるのかもしれないけど、、、。さっき言ってた「釣釜」とか、これまでの人が知恵を絞ってどういう生活をしてきたかとか、日本はどういう考えでどういう生活してきたのかみたいな情報も見えるからこれまでの日本人のの営みの具現化も工芸は果たしてるんじゃないかな。

山田:たしかにそうだね。先人がこれまで生きてきた中で自然を読み替えてきたのが工芸でそこに知恵が詰まってたりするんだと思う。

※1とらくらのコラム・・・メディア「とらくら」で伝統工芸アンバサダーが「工芸×〇〇」で各自テーマを設定し、執筆をしている。
※2炉開き・・・冬になって初めて囲炉裏(いろり)または茶事の炉を開いて用いること。 茶の湯では、10月の終わりから11月初めにかけて行う。

それぞれ伝統工芸とはどのような存在なのかここまで語った。
「とらくら」を通して発信したいことをについて後編では語っていく。

後編もぜひご覧ください!

伝統工芸学生アンバサダーとらくらは「伝統工芸を未来と世界に」をビジョンに活動する学生団体です!

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