まるで『下町ロケット』?!日本の漆を世界へ、松田権六『うるしの話』工芸×本

COLUMN

◆うるし入門書の決定版

 最初の出版は今から約60年前というかなり古い本ですが、今でもうるし入門書の決定版として多くの人に読まれ続けている一冊です。二部構成となっていて、第一部では日本の漆芸について、特徴や歴史、材料と塗り方、蒔絵や螺鈿といった漆器の装飾まで幅広く触れています。

◆「漆聖」と呼ばれた人間国宝、松田権六の半生

この記事冒頭にもある、本の表紙の絵も実は漆作品なんです。この本の著者である松田権六が制作したものでした。「漆聖」と呼ばれた人間国宝で、近代漆芸に多大な影響を及ぼした一人です。この本も氏への三日間にわたるインタビューから抜粋したものです。第二部では松田権六の半生を振り返るものとなっていますが、「漆聖」たるゆえんがわかる、面白いエピソードが満載です。

金沢で生まれた松田は、学齢期のころから漆に親しみ、兄から漆芸のイロハを学んだという。その後東京美術学校(現在の東京藝術大学)に進み、漆芸だけでなく様々な分野の芸術を学んだそう。その成果を発揮し、卒業制作ではなんと百点満点を取っただけでなく、ヨーロッパの博覧会で受賞もしたという。この時点で松田のとんでもない才能が如実にわかるが、その後、まるで『下町ロケット』のような仕事を行うのでした。

◆大型汽船の客室への塗装

 32歳の時、当時の日本では国産鋼鉄船が作られるようになった頃でした。そこで松田は客船に漆をしたいと思い、単身で日本郵船に乗り込みます。しかし、門前払いされてしまいます。それでもあきらめずなぜ漆が船に採用できないのか理由を探り、会社首脳部に対して「説明」の機会をもらい、ドラマの1シーンのような演説を行います。その熱意により、建造中だった照国丸・靖国丸の一等ベランダの扉に漆を施すことを認められました。わずか二週間の工期で完璧に仕上げたそうです。その後、それぞれロンドンへと出港していくのでした。ニスやペンキとの違いを見せつけたいと思っていた松田が、ロンドンから帰ってきた船を目にして思ったこととは……?それはこの本を読んでみてのお楽しみ。

他にも漆や「漆聖」 松田権六 に関する興味深い話がたくさんあります。ぜひ、この本を手に取ってみてみてはいかが?

伝統工芸学生アンバサダーとらくらは「伝統工芸を未来と世界に」をビジョンに活動する学生団体です!

けんた

けんた

大学では、都市をフィールドとして学んでいます。また学芸員課程を履修しており、これをきっかけに博物館や美術館に頻繁に行くようになりました。工芸にはまったきっかけは、この美術館巡りをしているときに、東京国立近代美術館工芸館(いまは金沢に移転し、国立工芸館となりました)で様々な工芸作品に出会ったことです。日用のものに込められた美に驚きました。工芸作品は、それぞれの作品が作られた「場所」やそこを取り巻く自然・人々の暮らしを包摂していて、こんなに素晴らしい作品がたくさんあったのか!と感動したのを覚えています。 とらくらでは、「地域」に根ざした伝統工芸を見ていくことで、まちと工芸の関係性・そしてその可能性を探りたいと考えています。

関連記事

特集記事

おすすめ記事

  1. 地域を盛り上げたいという想いから始まった眼鏡ブランド

  2. 金沢取材〜金箔の製造工程 in箔一②

  3. 【注目イベント速報】TOKYO DENTOKOUGEI FACTORY~伝統工芸の職人技とふれあえる5日間~ KITTEに7月21日~25日まで限定ショールームが開設。

  4. うるしの歴史

  5. これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  6. 新しい商品を作り上げる姿勢と作り方 藤井絞 part1.

  7.  【丹後ちりめん】絹糸の魔術師ワタマサが仕掛ける織物ブランド

  8. 【着物メディア編集長に聞く!】20代は知らない!?着物業界のリアル。

  9. 【有田焼 李参平窯】陶祖の想いを再興する十四代李参平の挑戦。

  10. 【久留米絣】いにしえのロマンを語る “野村織物” の洋服への挑戦

最近の記事

  1. 【メディア掲載実績】日本最大級の工芸品メディア『BECOS Journal』様に「伝統工芸の後継者不足問題を解決する取り組み」としてご紹介。

  2. 次世代へ繋ぐ技術 —デニム手描き友禅染「桑山」

  3. 世界に羽ばたく「ものづくり」の始まり

  4. 輪島キリモトさんの工房を訪ねて

  5. 【注目イベント速報】TOKYO DENTOKOUGEI POP-UP SHOP~伝統工芸の職人技とふれあえる5日間~ 二子玉川ライズ「ガレリア」で期間限定ショールームを開設。

  6. 想いも一緒に伝える加賀水引

  7. 地域を盛り上げたいという想いから始まった眼鏡ブランド

  8. 漆と私たち〜錦古里漆器店にて

  9. 金沢取材〜金箔の製造工程 in箔一②

  10. 金箔を「素材」から「主役」へ in箔一①

ランキング

  1. 1

    加賀友禅と京友禅~武士と貴族の感性の違いが一目瞭然!~

  2. 2

    『バカ塗』を世界へ~津軽塗職人父娘の挑戦~ 高森美由紀『ジャパン・ディグニティ』工芸×本

  3. 3

    伝統工芸×体験2 螺鈿細工

  4. 4

    上野戦争について詳しく解説してみた〜②大村益次郎の作戦〜

  5. 5

    【博多織 黒木織物】未経験でも”職人”になれる!? (前編)

  6. 6

    お茶室のふしぎ。3月のお茶室「釣釜」があるのはなぜ?

  7. 7

    これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  8. 8

    【伝統工芸✖︎大学生】とらくらは約15箇所の工房取材を予定!企画応援者を「スポンサー券」と「NFT」で募集!支援金は取材経費とトロフィー贈呈に

  9. 9

    【クラファンに挑戦し2泊3日の遠方取材実施予定】学生団体とらくらは4期生の募集を開始しました!伝統工芸に興味のある学生の皆さん、一緒に魅力を発信しましょう🐈🐈

  10. 10

    伝統工芸×化粧 #1

最新 人気 特集
  1. 【メディア掲載実績】日本最大級の工芸品メディア『BECOS Journal』様に「伝統工芸の後継者不足問題を解決する取り組み」としてご紹介。

  2. 次世代へ繋ぐ技術 —デニム手描き友禅染「桑山」

  3. 世界に羽ばたく「ものづくり」の始まり

  4. 輪島キリモトさんの工房を訪ねて

  5. 【注目イベント速報】TOKYO DENTOKOUGEI POP-UP SHOP~伝統工芸の職人技とふれあえる5日間~ 二子玉川ライズ「ガレリア」で期間限定ショールームを開設。

  6. 想いも一緒に伝える加賀水引

  7. 地域を盛り上げたいという想いから始まった眼鏡ブランド

  8. 漆と私たち〜錦古里漆器店にて

  9. 金沢取材〜金箔の製造工程 in箔一②

  10. 金箔を「素材」から「主役」へ in箔一①

  1. 地域を盛り上げたいという想いから始まった眼鏡ブランド

  2. 金沢取材〜金箔の製造工程 in箔一②

  3. 【注目イベント速報】TOKYO DENTOKOUGEI FACTORY~伝統工芸の職人技とふれあえる5日間~ KITTEに7月21日~25日まで限定ショールームが開設。

  4. うるしの歴史

  5. これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  6. 新しい商品を作り上げる姿勢と作り方 藤井絞 part1.

  7.  【丹後ちりめん】絹糸の魔術師ワタマサが仕掛ける織物ブランド

  8. 【着物メディア編集長に聞く!】20代は知らない!?着物業界のリアル。

  9. 【有田焼 李参平窯】陶祖の想いを再興する十四代李参平の挑戦。

  10. 【久留米絣】いにしえのロマンを語る “野村織物” の洋服への挑戦

  1. 着物ってどうやってカタチができるの?和服縫製のプロに聞いてみました!

  2. これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  3. 新しい商品を作り上げる姿勢と作り方 藤井絞 part1.

  4.  【丹後ちりめん】絹糸の魔術師ワタマサが仕掛ける織物ブランド

  5. 【着物メディア編集長に聞く!】20代は知らない!?着物業界のリアル。

  6. 【有田焼 李参平窯】陶祖の想いを再興する十四代李参平の挑戦。

  7. 【久留米絣】いにしえのロマンを語る “野村織物” の洋服への挑戦

  8. 【アリタポーセリンラボ】世界のラグジュアリー市場へ挑む秘策とは。

  9. 【博多織 黒木織物】異業種とのコラボに挑戦!? (後編)

  10. 【博多織 黒木織物】未経験でも”職人”になれる!? (前編)

TOP