塗りで魅せる津軽塗り ―木村漆工房を訪ねて―

東北

赤、黄、緑、黒、カラフルな漆が模様をつくる

漆器といえば、黒く艶のあるお椀を思い浮かべる方、蒔絵や沈金など加飾のイメージがある方が多いかもしれません。漆芸は、生地や塗り、加飾などがそれぞれ発展した地域が多く見られますが、青森県の津軽地方では塗りで模様を作る「変わり塗り」と呼ばれる技法が発展しました。

津軽塗は何度も漆を塗り重ねてから研ぎ出すことで、あの不思議な模様が出来上がります。そのため、「研ぎ出し変わり塗り」とも呼ばれています。

左:七々子塗 / 右:唐塗

今回お邪魔させていただいたのは、弘前市にある木村漆工房さんです。

津軽塗伝統工芸士である、五代目 木村正人さんにお話を伺いました。

仕掛けベラの体験

組み合わせも、模様も、無限大

津軽塗には代表的な塗りが4つあります。

・唐塗(からぬり)

不思議な斑点模様が特徴です。

仕掛けベラを使って、卵白や豆腐などを入れた黒色漆で斑点模様をつけます。その上に赤や緑、黄色などの色漆を塗り重ね、最後に砥石や木炭で研ぎ出します。

唐塗は昭和40年以降に飛ぶように売れました。職人さんがこぞって作ったので、津軽塗といえば唐塗りのイメージが強くなりました。この斑点模様には職人さんの個性が出やすいそうです。

・七々子塗(ななこぬり)

魚の卵のような模様が特徴です。

厚めに塗った漆の上に菜種を蒔き、硬化後に菜種を取ると種があったところに跡が残ります。ここに別の色の漆を塗り重ね、研ぎ出すと輪文が出来上がります。

日々の気温や湿度をこまめに確認して、菜種をくっつける漆の硬さを決めていきます。また、つけた菜種は漆の様子などを見計らってヘラで剥がします。職人さんの経験と知恵によって作られる模様です。

・紋紗塗(もんしゃぬり)

マットな黒と、艶のある黒で模様が描かれているのが特徴です。黒漆で模様を描いた後、籾殻で作った炭粉を蒔き、乾燥後に研ぎ出すと炭粉の中から模様が現れます。

江戸時代は花鳥風月を描いたり、家紋を散らしていたそうです。木村さんの工房では、現代の家でも使いやすい石目地や点々のような模様を作っておられます。

・錦塗(にしきぬり)

七々子塗を基本として、唐塗りなどの他の技法を組み合わせた豪華な紋様です。

手前:錦塗

バリエーションは550種類以上

津軽塗の特徴は、なんと言っても柄の種類の多さです。

江戸時代、お殿様が参勤交代する際にお土産として、「この模様で、〜〜を作ってくれ」というように注文が入ったそうです。また、江戸幕府に献上するだけでなく、お殿様自身も使われていたので、一点物の豪華なものが作られました。

そして、塗りであるからこそ、柄が擦り切れてくれば塗り替えも可能です。ただ修繕するだけでなく、別物として生まれ変わることもできます。

柄作りは自由です。櫛を使って線を引いてみたり、紅葉の葉をスタンプのように使ってみたり、なんでもできるからこそ、作品からは作り手の挑戦や想いが感じられます。そこが津軽塗の魅力ではないでしょうか。

木村漆工房の皆様、ありがとうございました。

伝統工芸学生アンバサダーとらくらは「伝統工芸を未来と世界に」をビジョンに活動する学生団体です!

コダマ

コダマ

漆が好きな大学生🐕

関連記事

特集記事

おすすめ記事

  1. 地域を盛り上げたいという想いから始まった眼鏡ブランド

  2. 金沢取材〜金箔の製造工程 in箔一②

  3. 【注目イベント速報】TOKYO DENTOKOUGEI FACTORY~伝統工芸の職人技とふれあえる5日間~ KITTEに7月21日~25日まで限定ショールームが開設。

  4. うるしの歴史

  5. これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  6. 新しい商品を作り上げる姿勢と作り方 藤井絞 part1.

  7.  【丹後ちりめん】絹糸の魔術師ワタマサが仕掛ける織物ブランド

  8. 【着物メディア編集長に聞く!】20代は知らない!?着物業界のリアル。

  9. 【有田焼 李参平窯】陶祖の想いを再興する十四代李参平の挑戦。

  10. 【久留米絣】いにしえのロマンを語る “野村織物” の洋服への挑戦

最近の記事

  1. 2023夏【和紙てまり・藍てまり】松江にしかない!?和紙てまり・藍てまり 

  2. 【完全保存版】京都府の伝統工芸品「西陣織」とは。特徴や歴史、種類まで徹底解説!

  3. 2023夏【和紙ギャラリー】「紙は神に通ず」~ 鹿児島県

  4. 2023夏【高橋鍛冶屋】かぼちゃからお刺身まで!30年以上使える伝統の包丁

  5. 2023夏【亀﨑染工 Part 2】社長さんにインタビュー!

  6. 2023夏【亀﨑染工 Part 1】信頼関係が生む、若手の成長の速さ。工芸のイメージががらりと変わる体験をしました!

  7. 2023夏【岩切美巧堂】熱き職人魂とともに発展し続ける薩摩錫器

  8. 【メディア掲載実績】日本最大級の工芸品メディア『BECOS Journal』様に「伝統工芸の後継者不足問題を解決する取り組み」としてご紹介。

  9. 次世代へ繋ぐ技術 —デニム手描き友禅染「桑山」

  10. 世界に羽ばたく「ものづくり」の始まり

ランキング

  1. 1

    加賀友禅と京友禅~武士と貴族の感性の違いが一目瞭然!~

  2. 2

    お茶室のふしぎ。3月のお茶室「釣釜」があるのはなぜ?

  3. 3

    上野戦争について詳しく解説してみた〜②大村益次郎の作戦〜

  4. 4

    伝統工芸×体験2 螺鈿細工

  5. 5

    『バカ塗』を世界へ~津軽塗職人父娘の挑戦~ 高森美由紀『ジャパン・ディグニティ』工芸×本

  6. 6

    これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  7. 7

    【博多織 黒木織物】未経験でも”職人”になれる!? (前編)

  8. 8

    上野戦争について詳しく解説してみた〜①彰義隊について〜

  9. 9

    【伝統工芸✖︎大学生】とらくらは約15箇所の工房取材を予定!企画応援者を「スポンサー券」と「NFT」で募集!支援金は取材経費とトロフィー贈呈に

  10. 10

    塗りで魅せる津軽塗り ―木村漆工房を訪ねて―

最新 人気 特集
  1. 2023夏【和紙てまり・藍てまり】松江にしかない!?和紙てまり・藍てまり 

  2. 【完全保存版】京都府の伝統工芸品「西陣織」とは。特徴や歴史、種類まで徹底解説!

  3. 2023夏【和紙ギャラリー】「紙は神に通ず」~ 鹿児島県

  4. 2023夏【高橋鍛冶屋】かぼちゃからお刺身まで!30年以上使える伝統の包丁

  5. 2023夏【亀﨑染工 Part 2】社長さんにインタビュー!

  6. 2023夏【亀﨑染工 Part 1】信頼関係が生む、若手の成長の速さ。工芸のイメージががらりと変わる体験をしました!

  7. 2023夏【岩切美巧堂】熱き職人魂とともに発展し続ける薩摩錫器

  8. 【メディア掲載実績】日本最大級の工芸品メディア『BECOS Journal』様に「伝統工芸の後継者不足問題を解決する取り組み」としてご紹介。

  9. 次世代へ繋ぐ技術 —デニム手描き友禅染「桑山」

  10. 世界に羽ばたく「ものづくり」の始まり

  1. 地域を盛り上げたいという想いから始まった眼鏡ブランド

  2. 金沢取材〜金箔の製造工程 in箔一②

  3. 【注目イベント速報】TOKYO DENTOKOUGEI FACTORY~伝統工芸の職人技とふれあえる5日間~ KITTEに7月21日~25日まで限定ショールームが開設。

  4. うるしの歴史

  5. これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  6. 新しい商品を作り上げる姿勢と作り方 藤井絞 part1.

  7.  【丹後ちりめん】絹糸の魔術師ワタマサが仕掛ける織物ブランド

  8. 【着物メディア編集長に聞く!】20代は知らない!?着物業界のリアル。

  9. 【有田焼 李参平窯】陶祖の想いを再興する十四代李参平の挑戦。

  10. 【久留米絣】いにしえのロマンを語る “野村織物” の洋服への挑戦

  1. 着物ってどうやってカタチができるの?和服縫製のプロに聞いてみました!

  2. これは何絞り?絞り染めと生地の違い、見どころ。藤井絞 part2.

  3. 新しい商品を作り上げる姿勢と作り方 藤井絞 part1.

  4.  【丹後ちりめん】絹糸の魔術師ワタマサが仕掛ける織物ブランド

  5. 【着物メディア編集長に聞く!】20代は知らない!?着物業界のリアル。

  6. 【有田焼 李参平窯】陶祖の想いを再興する十四代李参平の挑戦。

  7. 【久留米絣】いにしえのロマンを語る “野村織物” の洋服への挑戦

  8. 【アリタポーセリンラボ】世界のラグジュアリー市場へ挑む秘策とは。

  9. 【博多織 黒木織物】異業種とのコラボに挑戦!? (後編)

  10. 【博多織 黒木織物】未経験でも”職人”になれる!? (前編)

TOP