はじめに
今回、インタビューさせていただいたのは石川県金沢市の「加賀水引 津田水引折型」です。誰もが生活の中で目にしたことのある水引。最近では、アクセサリーや水引細工の流行により老若男女問わず注目を集めています。そんな中、伝統を受け継ぎながらも新しい取り組みを行っている津田水引折型さんの水引の特徴や、大切にしているモノ・コトについてお聞きしました。
加賀水引 津田水引折型の特徴
水引と聞くと「結ぶ」というものが印象的です。希少伝統工芸である加賀水引細工・津田水引折型では、和紙で「包む」、水引で「結ぶ」、差し上げる理由・気持ち・名前を「書く」この3つが基本になります。
この3つについて詳しく紹介します。1つ目の和紙で「包む」というのは、よく見る贈り物を「包む」というものとは少し異なります。ここでは、檀紙という種類の和紙を使用し、平たく折りたたんでしまわず、ふっくらとしたまま折り目をつけない立体的で華やかなフォルムが特徴的です。2つ目の水引で「結ぶ」では、あわじ結びを組み合わせる事で造形的・具象的な結びを作る事が特徴です。3つ目の差し上げる理由・気持ち・名前を「書く」では、包み方などに合わせた独特の書体が特徴的です。「包む」で説明したように、檀紙という厚手でちりめんのようなしわがあるものを使用しているため、文字を普通に書こうとしても難しく技術が必要なのです。
この3つの基本を考案したのは、初代津田左右吉さんです。美しい和紙の折型、立体的で高度な水引結び、和紙や奮起に合わせた書。初代から伝えられ、受け継がれてきた一つ一つの動作には、贈り物をただ単に包むということではなくて、贈り物と一緒に相手に思いを伝えるということを大切にしていることが伝わってきます。
コミュニケーション文化としての水引
津田水引折型では、約100年たった今でも初代津田左右吉さんの考案した折型や水引細工をベースとして、 結納品や祝儀袋(金封)に用いて製作を行っています。先ほど紹介した、「包む」、「結ぶ」、「書く」の3つを基本とし、伝えられてきた技法を大切にしていることはもちろんですが、他にも大切にしていることがありました。
それは、水引を通して送る相手に「想い」も伝えるということです。誰に対して、どのような場面で送るのかというのは人それぞれです。結納品などの注文を受ける際には、お客様としっかり話し、目的用途に合わせて包みを行っています。相手を大切に思う「心」や「感情」を言葉だけではなくて、ラッピングによって伝える日本の奥ゆかしいコミュニケーション文化の一つとして大切にしているそうです。
津田水引のアクセサリーブランド「Knot ノット」について
津田水引折型のアクセサリーブランド「knot ノット」。イヤリングやネックレスなど、色鮮やかな水引を使用した可愛らしいデザインが特徴のアクセサリーブランドです。knotは直訳すると「結び目」を意味します。しかし、本当の意味は他にもあるのです。日本での発音「ノット / not」は否定的なワードです。水引の小物やアクセサリーなどは水引の本質ではない”not”という否定的な意味を込めているそうです。
本来、水引は日本の伝統的なラッピングですが、結納品などを送ることをはぶいてしまう方が増えてきており、使用される場面が減ってきているそうです。そこで、まずはイヤリングやネックレスなど若い人も興味を持ち、手に取りやすい形にすることで、水引のことを知ってもらいたいという想いなどからブランドを作ったそうです。そして、あえて否定的なネーミングをつけ、水引の本質である、相手を大切に思う心や感情を言葉ではなくラッピングにより伝える日本の奥ゆかしいコミュニケーション文化だということを伝えたい、再認知させたいという想いが込められています。
おわりに
取材を通して、津田水引折型では、「包む」、「結ぶ」、「書く」という3つのことを基本とし、受け継がれてきた技法や想いを大切にしているということが分かりました。また、アクセサリーブランドを立ち上げたり、体験教室を行ったりと新しい取り組みの中で、水引の本質を伝えたい、再認知してほしいという想いがぶれることなく水引の魅力を伝えているということがとても印象的でした。
水引にはあまり触れる機会が無いと思う方もいるかもしれませんが、冠婚葬祭など人生の節目に使用され私たちの生活に深い関りがあると思います。アクセサリーや水引細工など、それぞれの方法で水引に興味を持ってもらい実際に手に取ってもらいたいです。そして、本質である想いを伝えるということを知ってもらい、水引をなんとなくではなくて相手を思い浮かべながら、想いを大切にしながら選んでもらえると嬉しいです。
工芸品は、知れば知るほど奥が深くて面白いものです。知るきっかけはどこからでもいいと思います。工芸の魅力を言葉だけで伝えていくことは難しいですが、少しでもきっかけを作れるように、自分にできることを考えていきたいと改めて思いました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
加賀水引 津田水引折型さん
執筆者:山下奈桜