糸が紡ぐ、時と心—有職組紐〈道明〉を訪ねて

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とらくら工房取材 vol.2「東京さんぽ」
取材日時:2024年3月7日
執筆者:佐伯葉奈

映画から広がる“結び”の記憶

組紐──その言葉を聞いたとき、何を想像しますか?
私たちZ世代にとって、真っ先に浮かぶのは映画『君の名は。』かもしれません。丸台を前に、主人公が静かに手を動かすあの場面。赤と青の紐が重なり合う瞬間。スクリーンを越えて、その美しさに心を奪われた人も多いでしょう。

組紐はもともと、仏具や甲冑、着物の帯締めなどに使われてきた格式ある工芸品です。しかし、現代では小物やアクセサリー、ネクタイなど様々な新商品が開発されています。今回、私たち「とらくら」メンバーは、そんな伝統と革新が詰まった​組紐を知るべく、東京都台東区上野にある有職組紐の老舗「道明」さんを訪れました。​

株式会社道明 店舗案内
◼ 上野本店:〒110-0008 東京都台東区池之端4-2-38
    TEL: 03-3831-3773
営業時間:平日 10:00~17:30/土曜 10:00~17:00(定休:日・祝)
◼ 神楽坂店(組紐体験・ショップ):〒162-0825 東京都新宿区神楽坂6丁目66
   TEL:03-3528-9874(ショップ)/03-3528-9875(教室)
 営業時間:11:00~17:00(定休:水曜・日曜・祝日)

各種webサイト
◼公式サイト:https://kdomyo.com
◼「組紐教室」:https://kdomyo.com/pages/教室トップページ)

時空を結ぶ手仕事──有職組紐「道明」さんの歩み

静かな路地に佇む有職組紐「道明」さん。そこには、約370年の歴史が宿っています。始まりは、江戸時代初期の1652年。徳川家光の時代、上野・池之端の地で誕生したこの工房は、宮中や武家社会の装束に用いられる格式高い「有職組紐(ゆうそくくみひも)」の製作を担ってきました。

そもそも組紐とは、飛鳥時代に大陸から伝来した技術をもとに、日本で独自の美意識と技術を育て上げたもの。平安の御所では儀式用の装束に用いられ、鎌倉・室町時代には武士の甲冑や刀の下緒(さげお)としても重宝され、細く、強く、美しく進化を遂げました。まさに、衣と武、礼と美を結ぶ “縁の技術” だったのです。

そんな組紐の歴史を、道明さんは脈々と継承し続けてきました。近代以降、着物文化が変化し、組紐の需要が減っていく中でも、伝統の灯を絶やすことなく、研究・修復・教育にも力を注ぎ続けてきました。実際、道明さんは奈良の正倉院宝物をはじめとして、様々な時代の工芸品に用いられた歴史的な組紐の調査・復元を行っていることでも知られています。

製作過程

組紐づくりの工程は、染め、干し、整え、そして組む──そのすべてが一つ一つ手作業で、職人の感覚と対話のなかで行われます。特に染めの工程は、気温や湿度、職人の心の波すら反映する繊細な作業なのです。

まず始めに絹糸を手染めし、色見本と照らし合わせながら染料を調合します。​その日の天気や用いる素材のわずかな違いなど、さまざまな要素を加味して色を出すため、決まったレシピは存在しません。まさに​“今日の色”が生まれるのです。そして染め上がった絹糸は乾かし、整経(せいけい)した後、重りに巻いて台に取り付け、職人たちが手作業で組み立てていきます。

見学の様子 

当日、道明さんご本人が出迎えてくださいました。
見学を通して、私たち「とらくら」メンバーに対して、組紐の製作工程やその魅力を一つひとつ丁寧に説明してくださいました。そのお話からは、組紐への確かな知識と強い責任感が感じられ、真摯に伝統を守り続ける姿勢が印象的でした。

「なぜ、これほどまでに緻密な美が生まれるのか」そう尋ねると、道明さんは静かに語ってくれました。
「それは、地形のせいかもしれませんね」。山に囲まれた日本列島は、細やかな分化と境界が重なり合う島国。その環境が、人々の内側へ内側へと向かう美意識を育てたのかもしれません。組紐はもしかすると「日本という国の縮図」だと考えると、すごくロマンがありますよね。

取材を通して学生が感じたこと 

取材中、組紐の色の組み合わせや糸の繊細な編み方に圧倒され、学生一同が思わず前のめりになる場面もありました。特に帯紐に込められた手仕事の精緻さには、「こんなに小さな面積にも丁寧な技が込められているなんて…」と感嘆の声が上がりました。

これからの試み ー 継ぐだけでなく、共に生きる文化へ

道明さんの組紐は、まさに「今に生きる工芸」でした。従来の伝統技術に加え、近年道明さんは「DOMYO」ブランドを設立。帯締めにとどまらず、ネクタイやブレスレット、ベルトといった洋装にも適した新たなプロダクトを展開しています。それらはどれも、絹の上質な手触りと、繊細な色彩設計に支えられ、伝統と現代感覚が絶妙に交わる一品ばかりです。組紐は「守るべき技術」であると同時に、その未来を“共に編み、共に楽しむ”存在として、次の段階へと誕生しているのです。

DOMYO 公式HP : https://domyo.co.jp/

改めまして、取材を受けてくださった道明さん、ありがとうございました!
有職組紐の老舗「道明」へ、皆様もぜひ一度足をお運びください。

【執筆者紹介
佐伯葉奈/ とらくら2期生
全国各地の学生を巻き込んで、日本の工芸を未来と世界へ発信中!人が何かを「継承する」という行為に着目し、もの・人・社会の関係性を研究をしています。
【参照】
・株式会社道明 公式HP(https://kdomyo.com/
・現地取材による聞き取り、撮影、および観察記録

伝統工芸学生アンバサダーとらくらは「伝統工芸を未来と世界に」をビジョンに活動する学生団体です!

佐伯 葉奈

佐伯 葉奈

アイヌ・アートの魅力にどっぷりはまり中。都内在住の大学です!

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