とらくら工房取材 vol.1 「東京さんぽ」
取材日時:2024年3月7日
執筆者:佐伯葉奈
すだれ —その言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか。夏の訪れを告げる風物詩。あの柔らかな竹の日除け。容赦ない日差しを優しく遮るゆらめきに、私は思わず夏の盛りを感じるのです。そんなすだれの魅力を知るべく今回とらくらメンバーは、台東区にある江戸簾工房の田中製簾所さんに伺いました。
「江戸簾(えどすだれ)」工房の田中製簾所
【会社名】 株式会社 田中製簾所
【所在地】 〒111-0031 東京都台東区千束1-18-6
東京都台東区にあり、浅草駅の隣の田原町駅から約徒歩15分。
工房の1階は製作作業が行われ、2階にショールームが広がっています。
【ホームページ】http://www.handicrafts.co.jp/
【営業時間・定休日】 HPご確認ください。
【TEL番号】03-3873-4653
【E-mail】 info@handicrafts.co.jp
東京都指定伝統工芸品「江戸簾(えどすだれ)」を製作する田中製簾所さん。東京都台東区にあり、その歴史は明治初期にまで遡ります。今回お話を伺ったのは、5代目で東京都伝統工芸士の田中耕太朗さん。
この工房では、伝統と革新が融合し、現代の暮らしに調和する「すだれ」が作られています。その製作過程とその背景を、とらくらメンバーと一緒にのぞいて見ましょう。
製作工程
まず始めに素材の選定です。同じ竹でも特性や質感などが異なるため、最適な素材を選び抜き、『下ごしらえ→竹割り→手取り→編み→仕上げ』を行います。素材がヨシ・ハギ・ガマ・ゴギョウの場合、『選別→編み→仕上げ』となるそうです。
(竹割りの作業)
実は竹割りの作業の中だけでも、なたで大割りし、目をひいた後、へぎを行い、小刀で小割りとけずりをするなど細かく工程が分かれています。非常に緻密な作業です。個人的には作業中に響く竹割りの音が、とても心地よかったです。
(織りの作業/ 実演の様子)
編みの作業では竹ひご、ハギ、ガマ、ヨシ等をモト、ウラの順に1本ずつ編んでいきます。材料の太さや用途によって、投げ玉の重さをかえるなどの微調整を行います。手作業で丁寧に編み上げられたすだれは、仕上げの段階で装飾や金具を取り付ける作業が行われます。
(すだれの障子)
見学を通して印象的だったのは、ランチョンマットやタペストリー、コースターとして使える小さなサイズのすだれの制作から、すだれの障子など、生活の中で気軽に取り入れられる商品が豊富にあった点です。現代の生活様式に溶け込んでいく簾の姿に、まさに「生きている」と感じました。
江戸簾の歴史
江戸時代に入ると江戸城や武家屋敷、商家などで簾が使用されるようになり、庶民の生活にも広まりました。近年は、安価で大量生産された製品などにより手作りの簾を製作する職人の数は減少していますが、昭和58年には「東京都伝統工芸品」に指定され、現在は生活に風流をもたらすインテリアとして再評価されています。
そもそも「簾(すだれ)」というのは住む所の「巣」の出入口に垂れ下げて、雨風や邪気を避けたことが始まりとする説があります。平安時代中期の『枕草子』にも登場し、神と人、高貴な人と庶民を隔てる屏障具として用いられま
した。
面白いすだれを発見!
ここでとらくら生が工房取材の中で見つけた、面白いすだれをご紹介します。
この文字が切り抜かれているすだれ!よく見てみると…
大変精巧な様子をご覧いただけるでしょうか。大から小と、切り込みを入れる道具の刃を調節しながら文字を刻んでいるそうです。かっこいい…。
(上の鉈が、現在使用中のもの)
2階のギャラリー
取材の終盤、田中さんは2階を見せてくださいました。そこにはシンプルな間接照明と簾だけで構成される贅沢な空間が広がっていました。まさに陰翳礼讃、暗がりを愛でる日本のその心を感じました。

すだれの隙間からこぼれ落ちる影がなんとも妖艶で、吸い込まれそうなほど魅惑的…。しかし恐る恐る足を踏み入れた私たちとは対照的に、その横で田中さんは朗らかにディスプレイを紹介してくださいました。あの時の田中さんの生き生きとした笑顔が、今でも鮮明に心に残っています。簾を愛し、何十年も変わらず作り続けてきた田中さんの物語が、ふと感じられました。
おわりに – 学生が感じたこと –
田中さんのすだれはまさに「生きた工芸」でした。使い心地や実際に使ってワクワクする感覚に重きを置き、工芸としての実用性を追求しながら、田中さんはこれからのすだれを新たな形で提案しているように感じました。その過程で、竹の一本一本の「声」に耳を傾け、その特性を最大限に活かす独自のモノづくりが繰り広げられていました。
そして私は、手と手で竹を編むという行為の中に、すだれが紡いできた膨大な歴史と、今という瞬間が重なりを強く感じたのです。ひとつの流れのように境界が溶けていくその中で、私たちの「日常」も確かに息づいていると、気が付いたのです。
(田中さんと学生たち)
伝統が未来に向けて進化し続けるために、私たちが取り組むべきことは何か。そして工芸・文化たるものの変容を観察した上で、私たちはどのように捉え直し、「再解釈」していけば良いのか。田中さんは手仕事を実演して下さりながら、終始私たち学生の質問に対して、一つ一つにゆっくりと言葉を選びながら一緒に考えてくださいました。今ある日常をどう生きるか――「作り手」の語りには、私たちの暮らし方に対する深い知恵が詰まっているように感じました。
改めまして、取材を受けてくださった田中耕太朗さん、ありがとうございました。
「江戸簾」の田中製簾所へ、皆様もぜひ一度足をお運びください。
ーーー田中製簾所ホームページ(以下引用)ーーー
【製作体験・職場体験の受け入れ】
田中製簾所さんでは、社会活動の一環として、教育児童・生徒に対する製作体験・職場体験の受け入れを行っています。教職員、PTA、各種青少年団体および指導者、各種団体研修、海外からの研修の方々、また一般の方の体験も受け入れております。東京都内の小中高等学校での出張体験授業にも応じています。
お問い合わせはHP:http://www.handicrafts.co.jp/まで。
なお、電話、ファックスによる問い合わせは下記へ。
【電話】080-4368-0910(田中耕太朗まで)【FAX】03-3874-0746
執筆者紹介
佐伯葉奈/ とらくら2期生
全国各地の学生を巻き込んで、日本の工芸を未来と世界へ発信中!人が何かを「継承する」という行為に着目し、もの・人・社会の関係性を研究をしています。
参考文献
田中製簾所ホームページ参照,http://www.handicrafts.co.jp/